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第64話

 リオールの腕の中で、アスカは静かに瞬きをした。  ぬくもりに包まれながらも、胸の奥がそわそわと落ち着かない。  けれど、それを打ち消すように、彼はふいに言った。 「……そなたの礼、あれほど美しい所作は、なかなか見られぬ」  え、と声にならない息がこぼれる。 「とくに、あの壇上での礼──気高さも、誇りも、すべてが、そこにあった」  それは、誰よりも近くで自分を見ていてくれた人の言葉だった。  努力を知っていて、成長を見届けてくれた人が、そう言ってくれる。  嬉しくて、恥ずかしくて、何かが胸の奥でふわっと弾けた。  視線を落とし、アスカは袖の中でそっと指先を握る。 「……あ、あれは、たくさん練習して……」  目を合わせられないまま言い訳のように呟けば、リオールがくす、と喉を鳴らして笑う。 「だからこそ、美しい。誰よりも、誇らしかったよ」  そう言われてしまえば、もう何も言い返せなくて。  ただ胸がいっぱいで、アスカはそっと唇を噛んで、顔を隠すようにリオールにより一層抱きついた。  きっと顔が赤くなってしまっている。   「ああ、アスカ。可愛いな。耳が赤いぞ」 「っ! は、恥ずかしいです……! 言わないで……!」  くつくつ笑う振動が伝わってくる。    無表情だと、感情が無いと、王宮ではそう言われる皇太子が、アスカの前でだけ、ただのリオールとなって、笑顔を見せてくれる。  ──あぁ、好きだ。    こんなふうに笑うリオールが、優しい声で名前を呼んでくれるこの人が、たまらなく愛しく感じた。

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