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第65話
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成人を迎えたことで、王宮では慌ただしく婚姻の儀の準備が進められようとしていた。
いよいよ、この時が来たのだ──。
待ち焦がれたその瞬間が、もうすぐそこまで迫っている。そう思うだけで、リオールの胸は静かに、しかし確かに熱を帯びていくのだった。
「殿下、今宵もアスカ様をお呼びにならないのでしょうか……?」
執務の途中、挟んだ休憩の時間に、陽春が唐突にそう言った。
リオールは目を瞬かせると、「なぜだ」と問いかける。
「殿下は成人なさいました。それであれば……アスカ様ともう少し、触れ合うお時間があってもよろしいのでは……?」
「……触れ合う時間」
「はい。畏れ多くも、私はこれまで、アスカ様が発情期を迎える度、苦悩を抱えながらただ静かに傍にいらっしゃる殿下が──あまりにも酷であると思っておりました」
「……」
実のところ、リオールはこれまでどれだけ『触れたい』と思っても、アスカの手を握ることと、抱擁意外、したことがなかった。
というのも、まだ成人をしていないという事実があったからだ。
少しでもアスカの心の負担になりたくなかったリオールは、長い時間を……今この瞬間もじっと耐えている。
何も言えなくなったリオールは、そっと視線を床に落とした。
「アスカ様は、殿下が成人していないという点を気にかけていたと存じております。それであるならば、もう、よろしいのではないでしょうか」
「……陽春。こればかりは、アスカの"許し"が必要なのだ」
「ですが……っ」
「良い。……初めて、アスカが王宮で発情期を迎えた時に決めている。私は、アスカが許してくれるまで、待つぞ」
陽春は思わず、鼻の奥をツンとさせた。
目頭が熱くなり、顔をサッと背ける。
──なんて忍耐強いのですか、殿下……!
愛する人が手の届く場所にいて、それでも許されるまでは触れない。
その健気さに、陽春は心を痛めた。
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