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第66話

 ──とは、言ったものの。  日課となった夜の散策。  アスカとふたり、静かな夜気の中を歩く。  リオールは、ふとした瞬間に湧き上がる衝動に胸の奥で熱が立ち昇るのに気づいて──反射的にアスカから目を逸らした。 「リオール様……?」  不思議そうな声で名前を呼ばれ、リオールは小さく息を吐いた。  そして、何事もなかったかのように、静かにアスカに向き直る。 「どうした」 「……? いえ。もしかして……どこか、ご体調が悪いのですか……?」 「体調?」 「はい。どことなく……ですが、いつもより力が入っていらっしゃらないような気がして」  アスカは眉を八の字に歪め、「失礼します」と言って、リオールの頬に触れた。 「っ!」 「お熱は……無いようですね」 「……っ、うん。ない。体調は、悪くない」 「でしたら、何か、気に掛ることがございますか?」  手が離れ、それを目で追いかける。  ──触れたい  そう思うより早く、リオールはアスカの手を掴んでいた。 「り、リオール様……?」 「──アスカ、少し、話がある」  緊張して声に力が入ってしまった。  おかげで、アスカは何やら悪いことを言われるのではと想像したらしく、不安そうな表情に変わる。 「話、とは……?」 「……長くなるやもしれん。私の……皇太宮に来てくれないか」 「……。わかりました」  外は冷える。  それなのに心臓は激しく動いていて、寒さを感じない。  皇太宮に向かうまでの間、手を繋いだままの二人。  距離は近いのに、言葉はひとつも交わされない。それは、緊張と不安のせいだ。  ──上手く、話せるだろうか。  リオールの頭の中は、アスカのことでいっぱいだった。

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