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第67話

 皇太宮に着き、あたたかな部屋で腰を落ち着ける。  手を離し、隣に座るアスカを盗み見れば、やはりどこか不安そうな表情をしていた。  何から切り出せばいいだろうか。  そう悩んでいる時間は、思っていたよりも長かったらしく、痺れを切らしたかのようにアスカが小さな声を出した。 「あの……リオール様、私は……何か、いけないことをしてしまいましたか……? ──もしや、お顔に触れたことをお怒りでしょうか……」 「いや」 「──リオール様がとても、お優しくしてくださるので、……思い上がってしまったようです」  シュンと悲しげに僅かに目を伏せたアスカに、リオールは目を見張った。 「違う、そうではなくて……」 「……では、何をお怒りでしょう。申し上げにくいのですが、私には検討がつかず……」 「……っ」  まさか、あらぬ誤解を産んでしまった。  このままでは、アスカはきっと、『嫌われた』と思ってしまうのではないか。  リオールはこれ以上アスカに誤解を与え、悲しませることになるのなら、『見栄も矜恃も必要あるか!』と意を決して口を開いた。 「何も、何ひとつも、怒ってなどいない」 「でしたら、なぜ、そうお黙りになるのですか……?」 「……っ、わ、私は、アスカに……願いが、あって」 「……願い……?」  アスカの表情はまだ晴れない。  リオールは自身の頬が熱くなっていくのを感じた。  緊張から、両手を握りしめる。  心臓がうるさい。 「私は、十八になった」 「はい。……先日の祝宴はとても素敵でした」 「……つまり、成人したのだ」 「ええ。大変喜ばしいことです」  嘘偽りのないアスカの率直な言葉に、今だけはリオールも『察してくれ……!』と思わなくもない。 「もう、私は──アスカに触れることを、許してもらえるだろうか」  じっと琥珀色の瞳を見つめる。  大きく見開かれていくその目には、自身がどう映っているのかはわからないが、少しでも『大人』として見えていてほしい。

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