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第68話

■■■  真剣な眼差しに貫かれる。  アスカはリオールからの視線を逸らせないでいた。  「……リオール様」  温度の高い視線は、長い時間をずっと待っていてくれたことがわかる。  これまで何度もあった発情期も、彼は抑制剤を飲んでジッと耐えながら、ただ、傍にいてくれた。  いくら抑制剤を飲んでいるからといって、きっとフェロモンは感じているのに、なんてことないような涼しい表情で手を握ってくれていたのだ。  けれど──こんなにも彼が『触れたい』と思ってくれていただなんて。  その想いが、胸の奥にじんわりと広がっていく。  嬉しくて、恥ずかしくて、どこかくすぐったくて──そして、なによりも愛おしい。 「……ずっと……そう思ってくださっていたのですか……?」  膝の上で組んだ指先が、わずかに震えているのがわかる。   「ああ、もちろん。アスカが思っている以上に、私がそなたを想う心は、大きいぞ」 「っ、」 「ずっと、ずっとだ。我慢していた。私が幼かったから。けれど、もう、大人になった」  苦笑する彼に、アスカはそっと目を伏せる。  「私のことを、気遣ってくださっていたのですね」  一度俯いたアスカは、恥ずかしさを感じながらも、ちゃんと言葉にして伝えなければと、続けて言葉を紡いだ。 「長くお待たせして、申し訳ありません。──触れてくださるのなら……優しくしてくださいね、リオール様」  リオールの目が見開かれたかと思えば、次の瞬間にはほんの微笑が浮かぶ。  安堵と喜びがないまぜになったような、凛々しい笑顔。  それが、あまりに美しくて──アスカの胸が、きゅっと締め付けられた。

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