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第71話

□  扉を開け放つと、すぐに薬草と薬剤の混じった匂いが鼻を突いた。  寝台には、蒼白な顔で横たわるアスカの姿がある。  部屋に響くのは、アスカのかすかなうわ言と、薬瓶の触れ合う音だけだった。  誰もが言葉を呑み込み、ただ事態の深刻さに肩を落としている。  希望よりも、焦りと不安が濃く、静かに空気を支配していた。  医務官が必死の形相で処置を続けている。  額には玉のような汗をかいていて、アスカの口元に何かを注ぐと、呼吸を確かめ、また別の瓶を取り出す。 「容態は──!」  思わず声を荒げると、医務官が顔を上げて一礼し、早口で説明を始めた。 「殿下、おいでくださってありがとうございます。……毒の種類は不明ですが、喉の炎症が酷く、発見が遅れていれば──命の保証はできなかったかと……」 「っ……」  リオールは思わず、胸の奥が締めつけられるような痛みに顔を手で覆う。 「幸いにも摂取量が少なかったこと、そして早期に対処できたことで、最悪の事態は免れました。ただ……しばらくは熱が続くでしょう。回復には時間が必要です」  薬を飲まされたアスカは、微かに眉を寄せてうなされている。  その細い喉がかすかに上下し、何かを言いたげに唇が動いているが、言葉にはならない。 「ああ……アスカ……」  そばに寄り、手を握る。  白い肌がさらに血色をなくしていた。 「アスカの体力は、保つのか……? こんなにも細い体が、そう何日も熱に耐えられるのか……?」  思えば、この体に、どれほどの重荷を背負わせていただろうか。  己が選んだはずの未来で、最も大切な者を、こんな目に遭わせている。  どうして、こんなことが起きている。  どうして自分は、それを止められなかった。  後悔は何度も押し寄せ、より大きくなっていく。 「……アスカ様の気力を信じる他、ありません……」  医務官は項垂れるようにそう言う。  部屋の隅では清夏と薄氷が悔しそうに唇を噛み締めていた。 「……そなたたち、何も気づかなかったのか……?」    リオールはふたりに向かい、淡々と問いかける。  二人は床に平伏し、後悔に満ちた声を絞り出した。 「っ! 申し訳、ございません……っ!」 「……」  わかっている。  彼らは悪くない。  気付けなかったのはリオールも同じだ。

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