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第76話

 相変わらず、アスカは寝台に上で苦しそうに眠っていた。  医務官によると、少し熱は下がったものの、やはりまだ高く、時折水を飲ませようとするのだが、あまり上手くいかないらしい。 「……アスカ」  名前を呼び、そっと手を握る。  白い手は、しかし熱く、リオールは胸を痛めた。  やはり、このまま失ってしまうのではないかという恐怖が大きく、手が細かく震えてしまう。    触れ合えない、遠い所に行ってしまったら──そんな最も恐れることを想像して、あまりにも苦しい。    いつ、目を覚ましてくれるだろうか。  いつになれは、声を聞けるだろう。   「……アスカ、お願いだ。目を覚ましてくれ……っ」  アスカの手を、額に当てる。  祈りが少しでも届くように、何度も繰り返し名前を呼ぶ。  ピクっと、僅かにアスカの手が震えた気がして、声は届いているのだろうかと、わずかだが希望が見えてくる。 「頼む……」  ぎゅっと、強く手を握る。  離れたくない。離したくない。  どこにも行かずに、ここに居てくれ。  そんな祈りを込めていると、アスカの閉じられた目から一筋の涙が零れた。 「ぁ……」  喉が震え、胸の奥が熱くなる。  その一滴が、どれほどの苦しみと、どれほどの想いを孕んでいるのか。  想像するだけで、胸が張り裂けそうだった。  目を覚ませ、なんて傲慢な願いかもしれない。  それでも、生きていてほしい。  傍に、いてほしい。ただ、それだけだった。

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