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第80話

□  リオールたちは、アスカが倒れて以来、厨房や料理人を徹底的に調べていた。  しかし「当日不審な動きはなかった」という結果しか得られず、捜査は難航している。  なので、一度は拘束された彼らも、証拠不十分で解放され、疑惑は薄れていった。  皇太宮に戻り、証言と記録帳簿を照らし合わせるも、これといって怪しい点は見当たらなかった。 「やはり、料理そのものではなく、素材や調味料に注目すべきではありませんか……?」  そう訴える陽春に、薄氷と寒露は眉を寄せる。 「しかし、この納品書に怪しい部分はありません。おかしな食材も、業者も……」  リオールは、並べられた帳簿をじっと眺めながら、あの日アスカに出された食事に使われた材料を今一度確認していく。 「──確か、汁物を飲んで、様子がおかしくなったのだったな……?」 「左様でございます」 「……その中身は?」  薄氷は厨房係の者に書かせた材料表を手に取り、ひとつひとつ読み上げる。 「──以上です」 「……薄氷、そなたは、アスカが倒れた時、床に散らばっていたそれらを見たはず。今、読み上げたもの以外に、何か怪しいものは入っていなかったか」 「何か……」  薄氷は記憶を巡らせたが、これといってピンとくるものはなかった。   「それであれば、やはり、汁そのものに毒が含まれていたと考えるべきか……」 「しかし、厨房では、料理人自らが必ず味付けの確認を行っております」 「では──厨房側から毒が盛られた可能性は低いな。材料も、調理工程も問題なし。ならば……配膳の段階で何かがあったと考えるべきか」  リオールの言葉に、侍従の三人は顔を見合わせる。 「……配膳係に、不審な者が紛れていた可能性もございます」 「尋問時に名前の記録を取っておりますので、確認してみましょう」  陽春は、多数の資料の中から、名前が記された用紙を取り出した。 「──小春、という若い女だそうです」  その名を口にしたとたん、リオールは静かに頷いた。 「すぐに連れて参れ」 「承知しました」  薄氷が駆け出す。  誰も一刻も無駄にできないと、必死で手がかりを掴もうとしていた。

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