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第84話

「薄氷、そなたはすぐアスカのもとへ向かってやってくれ。アスカが少しでも食べることのできそうなものがあれば、食料庫からいくらでも持っていきなさい」 「はっ……」 「私は──陛下との話が終わり次第、そちらに向かおう」  静かに瞼を閉じる。  陛下がどこまでを知っているのか。  なぜ、これまで明かさなかったのか。  そして、どうして手を貸してくださったのか。  その全てを知りたいが、その為にはきっと、こちらも何かしらの犠牲を払わなければならない。 「──殿下、国王陛下からのお返事が届きました。──国王宮で待つ、と」  陽春の声が届き、目を開ける。  そこに迷いは一切無く、何かを決意したように強い意志が灯っている。 「さあ、向かおう」 「はい」  確かな足取りで、国王宮を目ざした。 □  そこは緊張感で満たされていた。  玉座に座る陛下は、薄く笑いながらリオールを見下ろしている。 「皇太子よ。お前のオメガは息災か」 「……ええ。なんとか、回復しつつあります」 「そうか。それならば良い。──しかし、そなた、これしきのことで手こずっているとな」 「……お恥ずかしながら、陛下のお力をお借りしたく、こうして馳せ参じました」  頭を下げれば、陛下は厳しい声を落としていく。 「小春という女官を捕らえている。今は近衛兵が尋問をしている最中だ。──まあ、粗方事情は掴んでおるのだがな」 「……陛下はなぜ、小春の存在を……?」 「──オメガが毒を盛られた話を聞いた。そなたらが尋問をし、その後釈放したとも──」  王は言葉を区切ると、冷たい色を宿した瞳をリオールに向ける。 「甘すぎる。そう思ってな、尋問した者たちを秘密裏に監視していた。そうすれば、動いたのは一人の女──小春だった」 「……」 「深夜に、王宮から出ようとしていた。そのような行動、ただの女官がする理由がない」 「……その通りです。ですが、きっと彼女は……恐れていたのです。この事が露呈し、命を狙われることを」 「ふむ。ならば、なぜ毒などという手段を選んだ?」 「……それは、誰かに命令されたからでしょう。小春は……操り人形に過ぎなかった。私は、そう考えています」  王は鼻を鳴らすと、指先で軽く玉座の肘掛けを叩いた。まるで退屈を紛らわすような仕草。 「それに気づいたのが今か。──遅い。あまりにも、だ」  その言葉に、胸の奥が灼けるように熱くなる。だが、リオールはただ黙ってそれを受け止めた。

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