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第98話
「だが、そなたは理によって民と臣下を導くべきだと言った。そして、その理とは、愛情であるのだろうとも、思えた」
「陛下……」
「愛情がなければ、民も、臣下も、導くことすらできぬ。──その、形の無いものに、掛けてみるのも、また一興」
王はそう言い、懐から一冊の書冊を取りだした。
「……見てみるがいい。これが本物の帳簿だ」
「……え?」
リオールは目を瞬かせ、手を伸ばす。重みのあるそれを開くと、数ページ目で息を呑んだ。
そこには、アルドリノール卿の名前と、裏金の流れ、配膳係への不自然な手当、そして特別支出と名付けられた不可解な記録の数々。
「……これを、どこで……」
「奴は、自分に都合の悪い帳簿を偽物とすり替えていた。そなたらが手にしていたのは、それだ。そして、余の私兵が、奴の屋敷の隠し部屋から、本物をちと拝借してきた」
リオールは、愕然として王を見る。
「──余は、お前が王になれるかを見極めていた」
「……!」
リオールの目が大きく見開かれる。
王は静かに、しかし確かな声で続ける。
「その証拠は、お前にやる。その代わり──王位を継げ。次は、お前がこの国を導け」
リオールの胸の奥が、強く鳴った。
まさか、王はこんなにも、自分を信じてくれていたのか。
「──陛下」
「……」
「必ずや、貴方様を失望させることのない、王となりましょう」
そう答えたリオールの声音は、もう少年のそれではなかった。
王は満足げに、静かに目を細める。
「ああ。必ず、だ」
リオールは深く礼をする。
すると王の手が伸びてきて、ポン、と頭を撫でられた。
「だが、まずは婚姻をしろ。いつまで待たせるつもりだ。もう成人したのだ。準備も着々と進んでおる。このような問題、さっさと終わらせろ」
「はいっ」
「王位継承が終われば、余は……エルデのもとに行くつもりだ」
「!」
勢いよく頭を上げたリオールは、目を瞬かせた。
「エルデと共に、余生を過ごす。──エルデにはまだ、伝えてはおらんがな」
視線を落とした王は、再びリオールを見ると、軽く肩を叩き部屋を後にした。
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