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第99話
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「アスカ様、おはようございます。本日も林檎をご用意しました」
「ぁ……ありがとう、ございます」
林檎を食べたあの日以来、アスカは果物であれば少しずつ口にすることができるようになってきていた。
リオールがきっかけをくれたおかげだ。
アスカは心の底から感謝をしているのだけれど、まだ喉が痛むのでハッキリとした声が出せないでいる。
それでも薄らと掠れた声は出せるので、次にリオールに会えた時には、気持ちを伝えようとしていたのだが、忙しいのか、なかなか会うことが出来なかった。
目の前にある林檎を手に取りながら、傍にいる清夏に顔を向ける。
「で、殿下は、お忙しいのですね」
「そのようです。ですが、会いたいとお伝えになれば、お越しくださるかと。お伝えいたしますか?」
「ぁ……いいえ。私に会うくらいなら、少しでも、休んでほしいです」
「……アスカ様にお会いになることで、御心は癒えるのでは?」
「そんな力は、私には、ありませんよ」
苦笑するアスカだが、清夏は笑わなかった。
清夏は知っている。アスカに会ったあとのリオールはいつもよりずっと生き生きとしていることを。
「私も、そろそろ、療養を終えないと」
「いけません」
「……でも」
「アスカ様。まだお体が癒えておりません。そのような状態で何をされるおつもりでしょうか」
「……体が、鈍ってしまうので、一先ずは、散策を」
「いけません」
「……」
再三止められたアスカは、林檎をシャクっと噛みながら視線を下げた。
治っていないのは喉だけだ。
ずっと部屋の中というのも息が詰まってしまう。
「少しでも、ですか……?」
「……」
「ずっと、ここにいると、息が詰まりそうで」
「……。──小半刻だけですよ」
「! ありがとう」
アスカは花が咲いたかのように微笑む。
清夏はその笑顔を見せつけられ、思わず顔をほんのりと赤く染めた。
あまりのアスカの美しさに、照れてしまったのである。
「? 清夏さんは、体調が、悪いですか……?」
「いえ、全く問題ございません」
「そう、ですか……」
「そちらを召し上がられましたら、外に出ましょう。少し厚着をしなければなりませんね。外は寒いですよ」
「はい」
アスカは、出会った当初と比べ、清夏がよく話すようになり、まるで姉のように世話を焼いてくれる存在になったことが嬉しかった。
「清夏さん」
「はい。どうされました」
「……いつも、ありがとうございます」
「……。私のような者にそのような言葉は結構です。ですから、どうか、早くお身体を治してくださいね」
清夏の声は少し冷たいはずなのに、どこか優しさが滲んでいて。
アスカは自然と頷き、残りの林檎をペロリと平らげた。
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