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第103話

■■■  王位継承の儀を終えた夜。  先王──父と国王宮で酒を交わしながら、静かな会話を楽しむ。 「そなたが婚姻をし、アスカと番になるまでは王宮に残ろうか悩んでおる」 「それは、心強いですが……」 「……本心か? うるさい父には早く消えてほしいのであろう」 「まさか! そのようなことは決して思っておりません!」 「……は、どうだかな」  酔いのまわった父の横顔を見つめながら、リオールは盃を静かに傾けた。  燭台の明かりが、父子の影を、同じ方向に落とす。    しかしその静けさは、嵐の前の静寂だ。 「──明日だ」 「?」 「そなたは大臣たちの前に立ち、勅命を下すことになるだろう」 「──ええ。そのつもりです」  まずは、悪事の一掃。  アルドリノール卿を始め、静かに悪に手を染めていた者たちを断罪する。 「しかし、だ。そなたの命令ひとつで、亡くなる命があることを忘れるな」 「……はい」 「反対に、そなたの言葉で救われる者たちも多く在る。──取る手を、間違えるでないぞ」 「……しかと」  満足気に頷いた父は、あらためてリオールを見つめると、ハッと笑う。  それは愛を感じられるものだった。 「──大きくなったな」 「っ、」  父の一言に、目の奥がツンとする。 「厳しい事ばかりを言ってきた。それでも、このように真っ直ぐ育ってくれた。嬉しく思う」 「っ、父上」 「エルデにも、いつか、成長したそなたを見せたいものだ」  父はゆったりと言葉を紡ぐ。  リオールはついに、一粒の涙をほろりと零したのだった。

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