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第106話

□  重厚な扉が、ギィと低く軋む音を立てて開かれる。  その瞬間、玉座の間にいた大臣たちの視線が、一斉に──リオールを捉えた。  金と紅の王衣をまとい、堂々とした足取りで進むその姿は、まさしく国王そのものだ。  広間の床に反響する、コツ、コツという足音。  その一歩ごとに、玉座の間に張り詰めた空気が、さらに重くなる。  大臣らは静かに、ただ若き王の動向を見守っていた。  ──父上なら、どう動くだろうか  ──アスカなら、この光景をどう見るだろう  一瞬だけ胸をよぎった想いを、リオールは奥底に沈めた。  立ち止まり、玉座の前に手をかける。  重厚な装飾の施されたそれに、ゆっくりと身を預けるように腰を下ろす。  ピリッと、空気が張り詰めた。  居並ぶ大臣たちが、一斉に深く頭を下げる──。   「──国王陛下にご挨拶を申し上げます」  揃った声が静かに広間に響いた。  その声には形式ばった敬意と、しかし、微かに滲む試すような色があった。  だがリオールは口を開くことなく、ただ静かに彼らを見渡す。  圧することもせず、媚びることもなく──まっすぐに、王としての眼差しで。 「新たなる王の誕生を、心よりお祝いいたします」  その言葉にも、にじむのは探りと恐れ、そして侮り。  リオールは目を細めると、はっきりとした声音で言葉を返した。 「王冠を戴き、この玉座に座した時より、私はもはやこの国その物である。我が国民のために、ただ正しき道を選び続けよう」  言葉に迷いはなかった。  広間にいるすべての者が、次第に静まり返っていくのを感じる。 「──これより私は、勅命を下す」  ザワり、と空気が震えた。  視線が交錯し、表には出さずとも、大臣たちの間に緊張が走る。  新たな王が、初めて口にする命令。  それが祝辞か、あるいは波風の立たぬものなのか。  そんな期待と予測を含ませた眼差しが、玉座へと向けられる。  そして── 「一つ、これまで行われてきた悪事を全て暴き、その位に関わらず、厳粛に処すものとする」  凛とした声が、広間に響き渡った。  瞬間、広間にざわめきが広がる。 「なっ──!」  大臣たちの何人かが、抑えきれぬ声を上げる。  動揺を隠せぬ様子が、波紋のように広がっていく。  ただの可愛らしい勅命で終わるはずがない──そう思っていた者たちすら、想像以上の言葉に戦慄を覚える。  若き王が、自ら剣を抜いたのだ。

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