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第107話

「──それは、どういう意味でしょうか、陛下」  そんな中、一際落ち着き払った男──アルドリノールが一歩前に出た。  彼の言葉にまた静まり返った室内で、リオールは小さく息を吐く。 「今、申した通りである。私は、誰一人として許すつもりは無い」 「……それでは、陛下は、これまでの事があってこの国が支えられているのをお忘れということでしょうか」 「……何が言いたい」  アルドリノールは頭を下げたまま、淡々と言葉を紡いでいく。 「これまで、この国に貢献した者たちを、切り捨てるおつもりかと、問うております」 「……そうだな。場合によっては、そうであろう。──しかし、考えを改めるというのであれば、私も考えなくはない」 「それであれば──」 「──だが、」  リオールはアルドリノールの言葉を遮り、静かに立ち上がった。 「そなただけは、見過ごせん」 「な……、」 「私の大切な者を手にかけようとした。それは許されない事である」 「そのようなこと! 私はしておりません!」 「……そうか? では、これは、なんだと思う」  リオールは懐に隠してあった帳簿を取り出し、アルドリノールの目の前に投げた。  乾いた音。そして目の前に投げつけられたそれを見て、アルドリノールの顔は青く染っていく。 「その帳簿には、透熱粉の記載があった。それも、アスカが毒を盛られる数日前のこと」 「っ!」 「そして……私の母も、そなたの手によって、心を病まれてしまった」  リオールの瞳には、確かな怒りが滲んでいる。 「っ、違うのです! これは、何者かの陰謀です! 私を陥れるため、このようなことを……!」 「──では、誰だ? 誰がそなたを陥れようと?」  ただ冷静なリオールの前で、アルドリノールは視線をギョロギョロと動かし、そして床に手を着いた。 「それは、わかりませぬがっ、私は……!」 「──もう、よい」 「っ!」 「その帳簿こそが、真実であろう。それに、そなたがこれ程にも必死であること自体、証拠となりそうだ」  リオールは階段を下り、床に平伏したアルドリノールを見下ろす。 「王族を侮辱した罪は、何よりも重たいぞ」  そうして、傍らに潜ませていた兵士を呼びつけた。  抵抗する気力は消え失せたのか、大人しく捕まり連れられていく。 「──これで、一歩目だ。必ずや、良い国を造ろう」  リオールは去っていく背中を眺めながら、そう呟いた。

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