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第108話
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王宮が騒がしいと、清夏が難しい顔をしていった。
アスカはそんな彼女の意見に同意をして、外から聞こえてくる声を時折盗み聞きしていた。
『アルドリノール卿が捕らえられたそうよ……!』
『えっ! どうして……』
『どうやら、アスカ様に毒を盛ったのが卿だったとか……』
廊下から聞こえてきた声に、アスカは肩を震わせた。
それを見た清夏は厳しい顔で廊下に出ると「静かになさい」と叱責している。
「アスカ様、大丈夫です。ゆっくりと呼吸をしましょう」
「っ、ふぅ……」
薄氷が傍に来て、乱れたアスカの呼吸を整えていく。
「とても、お上手です。……お茶をお飲みになりますか?」
「……お願いします」
嫌な記憶が蘇ってきて、一瞬頭が混乱してしまった。
「陛下は、ずっと、戦ってくださってたのですね」
そして、リオールの優しさに、涙が滲む。
アスカ本人に何を言うわけでもない。
けれど、自分を守ろうと、してくれていた。
「っ、陛下には、感謝を伝えても、伝えきれません……っ」
「アスカ様……」
「まだ、番にもなっていないのに、ここまで……。ああ、どのような言葉を使えば、この心のままをお伝えできるのか……」
ぽろぽろと溢れる涙が手の甲に落ちる。
「どうか、そのまま。アスカ様の紡ぐお言葉が、陛下のお力になります」
「っ、」
「番ではなくとも、心は通じております。私たちはずっと傍で見守っておりました」
「……薄氷さん、清夏さん……」
二人は穏やかに微笑んだ。
アスカは堪らず声を漏らす。
「二人とも、ありがとう……っ」
リオールだけではない。
アスカがここでこうして生きていられるのは、か間違いなく、二人のおかげでもある。
アスカはそうして二人に感謝の言葉を伝えた。
涙が止まると少し頭がぼんやりとしていたのだけれど、「そろそろ会議が終わりそうですね」と清夏が少し涙に濡れた声で言った。
「──陛下は、お忙しいでしょうか」
「そうかもしれませんが……アスカ様がお会いしたいと言えば、駆けてこられるかもしれませんよ」
薄氷が目元を微かに赤くさせて言う。
アスカは、ふふっと小さく微笑むと、ゆっくり立ち上がった。
「陛下のもとへ、行きます」
「御意に」
無性に会いたくなった。
全てを、伝えたくなった。
この心のまま、あのお方をこれ以上なく愛したいと思う。
ひんやりする外を早足で歩き、国王宮へ向かう。
建物の前まで来ると、外にいた陽春とばったり出会い、彼はほんのりと微笑んで一礼した。
「アスカ様。陛下は中にいらっしゃいます。お取り次ぎいたしますので、少々お待ちください」
「お願いします」
外で待つ時間は落ち着かなかった。
綺麗な衣装を着せてもらい、髪も整えてもらっているのに、おかしなところはないかと、今更気になってくる。
そんな時間すら、愛おしかった。
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