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第109話

 陽春が戻ってきて、「どうぞ」と案内をしてくれる。  こうして国王宮に訪れるのは初めてで、少し緊張しながら廊下を歩いた。  しかし、次に開いた扉の奥で待っていたのは、いつもの優しい彼。 「アスカ」 「陛下っ」  アスカは静かに一礼すると、リオールのすぐそばまで歩み寄り、僅かに目を見張った彼の肩に触れると、そっと背伸びをしてその唇に自らのそれを重ねた。 「っ!」  驚き目を瞬かせるリオールに、唇を離したアスカは柔らかく微笑む。 「ど……どうした、そなたが、突然口付けをするなど……」 「どうしてでしょう。私は、こんなにも陛下が愛しくてたまりません」 「それは……それは嬉しいが、落ち着け。私の心臓が保ちそうにないぞ」  そう言われてしまったのだが、アスカは興奮していて、このまま伝えなければ後悔すると、口をとざすことは無い。 「とても、感謝しております。言葉では表せないほどなのです。──私が、毒を盛られた時も、そして、その後のことも。陛下はずっと、私を守ってくださった」 「っ、」 「ありがとうございました。私のために、ずっと……」  休むことなく、犯人を捕まえるために動いてくれていた。  その間にも、会いに来てくださり、始めて林檎を剥いてくださった。  先程治まったはずの涙が、またの溢れてくる。  手の甲でそっと拭おうとして、その手を掴まれる。 「──んっ……」  再び、唇が重なる。  二人の体温が溶け合うように、長く心地のいい口付け。  熱い舌に唇をなぞられ、ドキドキしながら僅かに口を開ける。  差し込まれた舌は、どうすればいいのか分からず、戸惑うばかりのアスカの舌を捕まえた。  舌が絡まり、唾液がアスカの口角から零れていく。 「んっ、ぁ……」  自然と声が漏れる。  腰にズクンと熱が溜まり、何も考えられなくなってしまう──。 「はぁ……ちゅ……ぁ……」 「は……蕩けた顔をしているな」  唇が離れると、アスカはうっとりとした表情でリオールを見上げる。  気持ちが良かった。初めての深くて甘いキスに、足が震えている。 「へいか」 「許してくれ。あまりにも可愛くて、我慢ができなかった」 「〜っ」  アスカの顔が赤くなる。 「今回の件に関して、そなたが礼を言う必要は無い。私は、私のために動いただけた」 「へ、へいか……」 「だが、もし、それては気が済まないというのなら、ひとつ、願いを聞いてはくれぬか?」 「願い、ですか……?」  アスカはどんなことを願われるのかが分からず、少し悩んだ末に頷いた。 「私は、そなたが許してくれるのなら、この先にも進みたい」 「この、先……?」 「ああ。──そなたを全身で愛したい」  そう言う真剣な眼差し。  アスカはそれが何を指すのかを理解し、視線を彷徨わせる。  そうして強く目を瞑り、僅かに震える唇を開く。  琥珀色の目は不安からか、グラグラと揺れていた。

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