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第110話

「もちろん、強要はしない。断ってくれても構わぬ。そもそも、こんな願いは卑怯であるとわかっているからな」  冗談めかして軽く笑った彼に、アスカは所なさげに両手を揉んだ。 「わ、私は、その……」 「何だ。何でも、言ってくれ」 「っ……、私は、何も経験がありません……っ」  震える声でそう言ったアスカに、リオールはキョトンとした。  だから、どうだと言うのだ、とでも言いたげである。 「陛下は、これまで、八人のオメガの方と……まぐわったのでしょう……?」 「ああ、そうだな」 「……私は、一人も……」  リオールと出会えたのは、あの仕来りがあったからだ。  しかし、あの時受け入れることができたのは、一重に『お給金』の存在があったからである。  だから、『怖い』などの感情より先に、家族に少しでも恩を返そうと勢いで引き受けたのだ。  しかし、今はその勢いは存在しない。  ましてや、経験不足の自分がリオールを満足させることが出来るのかどうかが不安だった。 「陛下に……ご満足いただけるかが、わかりません」 「……」 「初めてですから、緊張して……『痛い』と言ってしまったり、何か、お気に触ることをしてしまうかもしれません。……それが不安です」  恥を承知で打ち明けた。  彼はなんというだろうか。  失望してしまう? それとも── 「──なら、練習すれば良い」 「れ、練習、ですか?」 「ああ。もちろん、アスカだけではない。私も付き合うぞ」  アスカは戸惑い何も言えなくなって、小首を傾げるだけだ。 「今晩から、どうであろうか」 「こ、今晩から……!?」 「嫌か? 私は、そなたに触れたい」  じっと見つめられる。  アスカは不安ではあるが、決して触られることが嫌なのではない。  リオールはもう成人した男性だ。それに加え、国王でもある。  拒否をするつもりは、初めから無い。 「わかりました。それでは、今晩から……練習に、お付き合いくださいますか……?」 「もちろんだ」 「……下手だと、笑わないでくださいね」 「笑ったりなどしない」  リオールに手を引かれ、たくましい腕の中に閉じ込められる。  彼の香りが、アスカの揺れていた心を、落ち着けていった。

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