111 / 207
第111話
□
──夜に、また会おう
そう言って政務に戻ったリオール。
国王宮を出てすぐ、アスカは立ち止まって胸を撫でた。
──練習って、何をするんだろう
想像をすると、顔が熱くなってくる。
少しづつ暖かくなってきているとはいえ、まだ寒いのに。
「アスカ様、お部屋に戻りませんか?」
「っ、す、こし、散策します」
「わかりました。それでは、どちらに向かいましょう?」
「え、っと……ぁ、池の方に……」
とにかく熱を冷やしたくて、池の周りを歩く。
暫くぼんやり過ごしていたのだが、清夏が小さくクシャミをしたことでハッとした。
自分は熱さを感じているが、後ろを着いて歩いている彼女たちは違う。
慌てて部屋に戻り、火鉢を用意してもらい、清夏にはその傍で暖まってもらう。
「アスカ様、心配いりません。私は丈夫にできております」
「いえ、そこで、ちゃんと暖まってください。風邪をひいたら、大変です」
いつも世話をしてくれる彼女たち。
彼女たちにはずっと元気で長く生きて、幸せでいてほしい。
そんな思いを口にすることはないが、おそらくそう思ってくれているのだろうと、従者たちは感じていた。
「あの……清夏さん」
「はい」
「……夜、陛下と、練習することに、なって」
「練習……? 夜、ということは……もしや……」
清夏の目が僅かに見開かれる。
察しのいい彼女は、夜の練習が何を意味するのかを理解したのだろう。
そして、口元を手で覆い、嬉しそうに口角を上げていた。
「それは、とても良い事ですね。陛下もお喜びになるでしょう」
「っ、でも……何を、どうすれば、いいのか……」
そこまで話してから、ハッとした。
女性に対して、そんな質問をするだなんて、なんて破廉恥なことをしてしまったのだと気が付いた。
「すみません! 今のは、忘れて……!」
「いえ。何一つ、問題ございません。そもそも、私共は王族方が行為をされるそのすぐ傍で、常に控えております」
「えっ!?」
「香油など、必要な物を直ぐにお渡しできるように、傍におります」
「そ、そばに……!?」
これもまた、衝撃である。
「はい。ですが、見えないよう、天蓋は下ろされています。ご安心ください」
「……」
──安心は、できないよ……
そう思ったが、しかし、王宮ではそれが普通のことらしい。
それならば、その通りに従うしかないので、アスカはむぐっと黙り、時間が来るまで静かに過ごしたのだった。
ともだちにシェアしよう!

