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第116話

■■■  柔らかな朝の光が天蓋越しに差し込む。  リオールはゆっくりとまぶたを開け、隣に眠るひとつの気配を感じて、自然と口元がほころんだ。  ──昨日は、夢のようだった。  視線の先には、アスカはまだ浅い眠りの中にいた。  肩から掛け布が滑り落ち、白い肌が朝の光に照らされている。  最後まで体を重ねることができたわけではない。  しかし、それでも、これまでよりも深くまでアスカを感じることができて、心が踊ってしまった。  なので、それでも満足している。  リオールはそっと手を伸ばし、アスカの頬にかかる髪を払う。  ふ、と小さな寝息が漏れたのを聞いて、愛しさが胸いっぱいに広がった。 「……アスカ」 「……ん」  ぷにっと柔らかい唇に指先で触れれば、ムニムニと口を動かして、眉間に皺を寄せた彼は、ゆっくりと目を開ける。  震える長いまつ毛の奥、琥珀色の瞳がぼんやりと宙を見た後、視線が交わった。    その瞬間、アスカは花が咲いたかのように美しく微笑んで、リオールの心を鷲掴みにした。  きゅぅっと苦しくなるほどの愛おしさに、「はっ……」と息を吐いて固まってしまう。 「おはよう、ございます」 「……」 「……? リオールさま……?」  まだ眠たそうな、おっとりした声。  リオールは激しくなる一方の動悸を抑えようと、アスカから目を逸らした。 「ぇ……ぁ、リオール様……?」  すると、どこか不安そうに名前を呼んでくるアスカに、リオールはひとつ咳払いをする。 「アスカ、少し、待ってくれ」 「……、はい……」  深く息を吐いたリオールに、上体を起こそうとしていたアスカの肩が揺れる。 「ぁ……お、お怒り、ですか……? 私が、下手だった、ばかりに……」 「──!? 違う!」 「では……あ、呆れて、いらっしゃいますか……?」 「それも違う!」  リオールはあわてて否定し、不安げにこちらを見るアスカを前に、眉を八の字にさせた。 「違うんだ、アスカ……」  そうして、アスカの肩を引き寄せる。  抵抗することなく、すんなり腕の中に納まった彼が、愛しくてたまらない。 「可愛すぎて、どうにかなりそうだった……。朝から見とれてしまって、言葉が出なかっただけだ」 「……え」 「昨夜のことも……今日こうして隣にいてくれることも、全部、嬉しくてたまらない」  許されるのなら、このまま、ずっとくっついていたい。

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