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第125話

 次の練習はいつにするか、そう問われたリオールは穏やかな笑顔を見せた。 「もう、練習は良いだろう。──私も、我慢できそうになくなってきた」 「えっ!」 「近々、婚姻の儀も行われる。その日を、本番にしようか」  その提案に、アスカは目を瞬き、そして静かに頷いた。  リオールに触られることに対して、不安が無くなったのだろう。  そうできたことは、リオール自身も嬉しい。 「あ、陛下」 「なんだ」 「あの……婚姻の儀には……家族を呼ぶことは、できますか……?」  恐る恐るといった様子で問いかけてきたアスカに、リオールは「ああ」と頷く。   「その時だけでなくとも、そなたに会いに来ていただくのは、かまわないぞ」 「え!?」 「ん?」 「ほん、本当に……!?」  まさか、そんな許可が降りるとは思っていなかったのだろう。  リオールとしては、アスカが望むことはできるかぎり叶えてあげたいのである。 「ああ、かまわない。なんなら迎えを送ろう」 「ぁ、いえ、でも……急だと、驚いてしまうかもしれないので……」 「なら、いつも通り、文を送ろう」 「……いつも通り?」 「あ……」  リオールはポロッと口を滑らせた。  というのも、アスカが王宮にやって来て一ヶ月経った頃のこと。  アスカ自身が家族と連絡を取っていないことを知った。  それには何かしらの理由があるのだろうと思ったが、家族は不安に思っているのではないかと、秘密裏に文を送っていたのだ。 「ど、どういうことですか、陛下」 「いや、なんでもない。聞かなかったことにしてくれ」 「それは、それは難しいです……!」 「許してくれ……」  アスカに詰められるのは初めてだ。  胸元に触れる手が、こちらを見上げる目が、いつもより怒っているように見える。 「どうして秘密にしていたのですか……!」 「……アスカが、文を送らないことに、理由があると思って……」  リオールは珍しくタジタジになってしまう。  近くにいた陽春も、二人の様子に驚きつつも、主のその姿に小さく笑みをこぼした。 「もう……どうせなら、一言、仰ってくださってもよかったのに……」 「すまぬ……」 「……いいです。きっと、陛下は、私のことを気遣って下さったのでしょう。私が……家族を思い出して寂しい思いをしないようにと、考えて下さったのだと、思いますから。──ですが、」  一度言葉を区切ったアスカは、ジロっとリオールを見上げた。 「次からは、ちゃんと教えてください。私を仲間はずれにしないでくださいね」 「! 当たり前だろう」 「……ふふ。なら、かまいません」  少し怒った表情から一転。  柔らかい笑みを浮かべたアスカに、リオールはほっと胸を撫で下ろした。

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