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第127話

■■■  その日は、青空が広がり雲ひとつない晴天だった。  あたたかい春の風が、頬を撫でる。 「アスカ様、ご家族様が御到着されました」 「!」  礼服に身を包んだアスカは、薄氷の声に反応して振り返ったのだが── 「アスカ様、動いてはなりませんよ」 「ぁ……はい」 「あともう少しですので、ご家族様にはお部屋にてお待ちいただきましょうね」 「はい」 「それから、もう敬語はおやめくださいまし」 「はい。……ぁ、うん」  赤い衣に金の刺繍が入る服は、あまりにも豪華である。  耳飾りも美しく、アスカも何度も眺めるくらいなのだが、しかし、重たい。 「清夏さん」 「清夏、で結構です」 「……清夏、少し、重たい」 「それは堪えてくださいませ」  いつもなら何も言わずに堪えているのだが、今日は少し難しく思えた。  というのも、朝から体が重だるいのだ。  若干、火照っているようにも思える。 「発情期に、入ったらどうしよう」 「それでも、堪えてください。王妃さまになられるのです。今日という日は、これ限りなのです」 「……うん」 「ですが……どうしても、倒れそうになったなら、その時は陛下に支えてもらいましょう。発情期前だと言うことは、陛下にも伝えておきますから」  不安だが、仕方がない。  きっと式典中に倒れることはないだろう。  踏ん張らなければ。 「お薬は飲まれますか」 「うん。貰います」 「では、お飲みになられてから、ご家族様のもとに参りましょう。──さて、これで完成です。少しこちらでお待ちください」 「うん」  椅子に座らされ、ふぅ……と息を吐く。  今着せて貰った衣装と、丁寧に結われた髪が崩れないように、慎重に動く。  その様子を見ていた薄氷は、少し眉を下げた。 「アスカ様、崩れたら直しますので、もう少し楽になされては」 「ぁ……いや、清夏に、申し訳がないので……」  ほのかに香る甘い香り。  薄氷は心配になりながら、清夏が持ってきた薬を飲むアスカを見て、すぐにリオールのもとに駆けた。

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