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第128話
薬を飲んだあと、清夏に背中を押されるようにして、アスカは家族の待つ部屋へと向かった。
扉の前に立つと、心臓がどくんと大きく脈打つ。
長く会うことも叶わなかった家族たち。
扉が静かに開かれると、そこには懐かしい顔があった。
「──アスカ!」
最初に声をあげたのは、母だった。
次に立ち上がった父と、弟たち。
変わらない温もりが、そこにはあった。
「……母さん……みんな……」
重たい衣装も、火照る身体も、この瞬間だけは忘れられた。
母に抱きしめられ、弟に袖を引かれ、父に肩を叩かれる。
ああ、自分はこの家族の中で育ったのだと、涙が滲んだ。
四年間、感じることの出来なかった家族の愛情。
それが押し寄せてきて、ポロリと涙がこぼれる。
「ああ、泣いてはダメよ。せっかく綺麗にして下さってるのだから」
「ん……でも、嬉しくて……っ」
アスカを優しく見守るような微笑みを浮かべている母──ユウリは、アスカの手を取り、そっと撫でる。
「貴方が、王妃様になるだなんて、信じられないわ」
「わ、私も、まだ、信じられなくて」
「兄ちゃんが『私』って言ってると、違和感があるな。家にいる時はずっと『俺』だったのに」
大きくなった一人目の弟──アレンがそう言って笑う。
そんなアレンの頭を父──エイデンが叩いた。
「いてっ!」
「王妃様に、なんて口の利き方をするんだ!」
「あ、やめてください、父さん。そんな……今まで通りで良いのです。私は、変わらず、貴方たちの家族でありたい」
アスカはそう言って、エイデンに微笑みかけた。
「沢山のご心配をおかけしました。それに、なかなか連絡をすることもできずに……」
「いや……連絡は、陛下からいただいていたので、アスカが……どのように生活をしているのかは知っていたよ」
緊張が解けたのか、エイデンも以前のように柔らかく会話をしてくれる。
「それは……私も、最近知りまして……。陛下は私にも秘密で手紙をお送りしていたと」
「ああ。だから安心していた。毒のことを知った時は気が気ではなかったけれど、無事に回復したともあったから……」
そこで一度言葉を区切った彼は、目に涙を貯める。
「──無事で、良かった……!」
涙を溢れさせるエイデンに、ユウリもアレンも涙を零す。
「兄ちゃん! 俺は泣かないよ!」
「ふふ。そうだね。……ごめんね」
二番目で末っ子のアキラに飛び付かれ、ぎゅっと抱きしめる。
久々に感じた家族の温かみに、アスカは心から幸せに包まれた。
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