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第130話
「私達は、王妃様から離れるつもりはありません」
「貴方様と共に過ごして来れたこと、とても嬉しく思います」
二人にそう言われ、アスカは大きく頷いた。
まるで『私も』と言うように。
「さあ、そろそろ、扉が開きますよ」
そうして、扉の前に立った瞬間、胸の鼓動がひときわ強くなった。
重たく、華やかな衣装に、丁寧に結い上げられた髪。
耳元で揺れる飾りが、心のざわめきを映すように音を立てる。
──いよいよだ。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐く。薄氷がそっと背中に手を添えた。
「……アスカ様、いってらっしゃいませ」
その言葉と同時に、広間へと続く扉が、音もなく開きはじめる。
光が差し込む。まばゆいほどの陽光と、それを反射する純白と金の装飾。
空気が変わった。そこは、王国の祝福と威厳が満ちる、特別な空間だった。
アスカはゆっくりと顔を上げる。視線の先、広間の最奥に立つその人。
──陛下
王としての威厳をまとう彼──リオールの瞳に射抜かれる。
優しく、真っすぐに、まるで「来てくれて、ありがとう」と語りかけるような眼差しで。
その視線に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
怖かった。
自分が王妃になっていいのか、少し迷いがあった。
けれど、リオールのそばに居たい、共に生きたいと願ったのは、誰でもない自分自身だ。
だからもう、迷わない。
足を踏み出す。赤い衣が音もなく揺れ、金の装飾が光を弾く。
自分の歩みが、広間に静かに響いていく。
多くの視線を感じても、顔を上げて、ただ真っすぐに彼のもとへと向かう。
リオールだけが、目的地である。
彼の隣こそが、私の居場所。
これは、ただの儀式ではない。
これは、ふたりの約束の証。
リオールと共に生きると決めた、その想いの、始まりの瞬間だ。
ようやく辿り着いたこの場所で、アスカは心から、誓いを立てた。
――私は、あなたと共に生きます。
そうしてリオールの手から王妃の冠を受け取る。
その冠は、ただの装飾ではなかった。
王妃としての責務、王国の未来、そしてリオールとの誓い……それらすべての象徴に思えた。
「──王妃、とても、綺麗だ」
「っ、陛下も、とても、格好いいです」
ようやく言葉が交わせた。
多くの視線が集まる中、リオールの手が肩に添えられる。
顔を上げれば、彼と目が合い、そうして──誓いの口付けを交わした。
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