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第131話

■■■  こちらに向かい、躊躇うことなく、堂々とした態度で歩んでくるアスカ。  あまりにも美しいその姿に、リオールは思わず息を飲んだ。  手を差し出せば、そっと重ねられ、穏やかな笑みを浮かべる彼。  どこか体温が高く感じられるのは、事前に薄氷に伝えられた通り、発情期が近いからだということがわかった。  しかし、そんなことも感じさせない優雅さが、アスカにはあった。  何事も無いかのように臣下たちに対し礼をし、祝いの言葉を掛けられれば、柔らかく返事をする。  披露の場で御家族が傍にやってきた時も、人前であるからと感情を高めることはない。  すでに『王妃』となったアスカは、堂々たる振る舞いで隣に座っている。  そんな彼の耳元に、そっと顔を寄せる。 「体は無事か」 「っ、今は、なんとか」  ビクッと小さく跳ねた体と、ほんのり赤く染る頬。  その『なんとか』が、相当の無理を含んでいることは明白だった。 「アスカ、少し私にもたれなさい。多少体勢を崩したからといって問題にはならない」 「──いえ。これは、私の責務です」  辛さを少しでもやわらげてやりたかったが、確固たる心で拒否をした彼に、リオールは苦笑する。   「無理をするな」 「無理ではありません。まだ、大丈夫です」 「だがな……」 「……それであれば……夜に……たくさん甘やかしてください」 「!」  アスカの整った横顔を見ながら、リオールは口元を緩める。  ……今夜は、決して忘れないものにしよう。  そう思いながら、静かに盃を傾けた。

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