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第132話
陽がゆるやかに傾き、祭典の賑わいが一段落する頃、リオールは国王宮に戻っていた。
絢爛な式のあとも、国王の務めは終わらない。祝いの盃を酌み交わしながらも、彼の頭の中はこれからの政務と、そして──アスカのことに占められていた。
今宵、おそらくアスカは隔離に入る。
それは、つまり『そのとき』が迫っているということだ。
このあとしばらくは政務の場に立つことができなくなるはず。
だからこそ、今このわずかな時間でも、仕事に没頭しておく必要があった。
「……この案件は明朝までに通達を。こちらは、陽春に託す」
書類に目を通し、決裁印を押していく。
いつもなら人の動きや音が気になってしまうこともたるのだが、このときばかりは余計な思考は全て綺麗さっぱりと無くなっていた。
ただ、黙々と筆を走らせ続ける。
扉の外に気配がしたのは、それからしばらく経った頃だった。
遠慮がちに陽春へと何かを伝えに来る者が一人。
リオールが視線を上げると、控えていた陽春は静かに頭を下げた。
「陛下。王妃様がただいま隔離に入られたもようです」
その言葉は、静かな夜を告げる鐘の音のようだった。
心のどこかで、ずっと待っていた一言。
けれどそれを聞いた瞬間、胸が締めつけられるような感覚が走る。
「……そうか」
小さく息を吐き、リオールは筆を置いた。
今までの静けさが一気に破られ、胸の内に波が立つ。
いよいよだ。
この日を、どれほど思い描いてきただろう。
ただ触れることも、抱き締めることも、慎重にならなければならなかった日々。
アスカを守るために。
そして、自分自身を律するために。
だが、今夜。
アスカがそれを受け入れてくれるのなら──ふたりは『番』になる。
この身も、この心も、すべてを彼に捧げる覚悟は、とうに決まっていた。
だが、ほんのわずかに震える指先が、自分の緊張を物語っている。
机の引き出しを開け、小瓶を取り出す。
淡く光を帯びた液体──それは、発情に呼応する本能を抑える薬だった。
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