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第140話

 発情期を終えた日の朝。  腕の中で穏やかに眠るアスカにリオールはほっとしながら、静かに陽春を呼んだ。   「──朝は、消化の良いものを。発情期の間はほとんど食事をとっていないからな。王妃の体が驚くかもしれん」 「はい。そのように」 「……政務の方は、どうなっている」  アスカの髪を一束掴み、口元にあてながら問いかける。  微かに残るフェロモンと、汗の匂い。  しかし全く嫌ではない。むしろこれが良い。 「は。滞りなく。全て陛下のご指示通りに進んでおります」 「そうか」 「王妃様には、もう暫くお休みいただきますか? 本日はおそらく、お動きにはなれないでしょうから、明日以降……もしくは、明後日でも……」 「ああ。無理はさせるな。少しでも足下が危ないと思ったのなら、寝かせておくように」 「かしこまりました」  愛しい彼の項には、リオールの付けた証がある。  サラリとそこを撫でると、小さく体を跳ねさせたアスカが、薄らと目を開けた。 「ああ、すまない。起こしてしまったか」 「……へいか」  その声は行為のせいで少し枯れてしまっている。  沢山啼かせた覚えがあるので、リオールは苦笑し、アスカの頬を撫でる。 「蜂蜜の入った飲みものを用意させよう」  それが何を意味しているのか、寝起きのアスカはしかし理解をして、ほんのり赤く染った顔をリオールの胸に埋めて隠す。 「……ああ、可愛いな」 「もう……おやめ、ください。恥ずかしい……」  発情期が終わったので、しっかりとした思考に戻ったらしく、あの大胆な姿ではなく、控え目なアスカになった。  この差が、リオールにとってはとても可愛らしく、心臓を掴まれているようにすら思える。 「私はもう少しで政務に戻る。アスカはゆっくり過ごしなさい」 「ぁ……」  名残惜しそうな声。  胸に触れる手が伸びて、リオールの頬を撫でる。 「もう、行ってしまわれますか……? あと少し、せめて、お食事を一緒に……」 「……そうだな。そうしよう」  アスカには甘いリオールは、食事も政務の合間に取るつもりだったが、潤んだ目に見つめられ一も二もなく頷いた。

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