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第142話
身支度を終えたリオールはまだアスカが寝台から動けていないと聞き、部屋へ戻る。
すると、彼はすでに起き上がっていて、しかし、よろり、と揺れた体を慌てて寝台の柱につかまって支えるその姿に、思わず眉をひそめた。
「……無理をするなと言っただろう」
低く落ち着いた声に、アスカはびくりと肩を震わせた。
けれど、すぐにふわりと笑って、控えめに言う。
「申し訳ございません。ですが……陛下と一緒に、食事に向かいたかったのです……」
その一言で、怒りが愛しさに変わってしまうのだから、本当に困ったものだ。
リオールはそっと歩み寄り、アスカの足元を見る──やはり、まだ力が入りきっていないのだろう、少し震えている。
「それならば、従者を呼びなさい。一人では危ないだろう」
「……はい」
「歩けると思ったのか?」
「……思ってました……少しは」
素直すぎる返答に、リオールは溜め息をついたあと、ふいにアスカの体をひょいと抱き上げた。
「っ……! 陛下……っ!?」
驚いたアスカが慌てて首にしがみつくと、その顔がすぐ近くにくる。微かな甘い香りがふわりと鼻をかすめた。
「王妃の『少し』は、信じられないな」
「う……申し訳ございません……」
拗ねたように言うアスカの髪にキスを落としながら、リオールは静かに囁く。
「謝るな。そなたの気持ちは嬉しい。しかし、大事な体だ。私の番となったんだぞ。無理をしたら、怒る」
その声音はとてもやさしくて、けれど逆らえないような強さを持っていた。
アスカは恥ずかしそうに頷いて、またリオールの胸に顔を埋めた。
「……じゃあ、次はちゃんと歩けるように……私が強請っても、少し、控えてくださいますか……?」
「それは無理な話だな」
「……では、どういたしましょう」
困ったように笑うアスカに、リオールは楽しげに答えた。
「そうだな。……それでは、体を重ねた翌朝は、私がこうして王妃を連れていこう」
「!?」
「愛しい王妃──いや、アスカ。死ぬまで私のそばを離れるなよ」
「〜っ、はい」
そんな言葉を聞いて、アスカは顔を真っ赤に染めたまま、そっと目を閉じた。
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