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第151話

□  翌朝、腰に甘い違和感を感じながら、アスカは清夏と薄氷に嬉々とした表情を見せた。 「許可が出ました。陛下と、お忍びで視察に行きます」 「……」 「私は行くよ」  あまりにもキラキラとした顔をしているので、さすがの清夏も薄氷も、何も言えずに頷くしかなかった。  ──こっそりとお守りすればいい。王妃様には伝えずに、静かに。バレないように  二人の心は一致している。  陽春もきっと、同じように考えているはずだ。 もっとも彼のことだから、リオールを説得して堂々と随行する道を選ぶかもしれないが。 「では、いつ向かわれますか? お忍びであるならば、腕の立つ護衛を数名用意します。おそらく、陛下もそうお考えでしょう。お召し物は如何なさいましょうか……」 「拘らないよ。私が村で着ていたようなものでかまわない」 「……ですが、陛下とお忍びで向かわれるのでしょう? ……少しばかりは、着飾りたくはありませんか?」 「!」  清夏に言われ、アスカはハッとした。  視察だが、リオールには逢瀬とも伝えているわけであって、下手な格好をして隣を歩くのは失礼に値すると気付いたのだ。 「ど……どうしよう」 「……もしも、拘りがないのであれば、私にお任せいただけますか?」 「清夏に?」 「はい。かならずや王妃様にお似合いのものを用意致します」  清夏はまるで自分自身がお洒落をするかの如く、やる気に満ちた様子。  アスカは「お願いします」とひとつ頷いた。 「いつ行くかは……陛下の政務次第になると思うので、また相談して、伝えるね」 「わかりました」  頭を下げた二人に、満足気に微笑みを返し、そっと腰に手を添えた。  昨夜の余韻が、まだ微かに残っている。  街は、どのようなところなのだろうか。  活気があって、賑やかなのだろう。  ──しかし、届く請願書にはあまり良くないことも書かれてある。  アスカは王妃になったのだから、その責務を全うしなければならないと燃えていた。  リオールと共に、より良い国へ。  ただの平民だった自分が、こんなことを思うようになるとは考えもしなかった。  胸に生まれた覚悟と、責任感。  これを今は、誇らしくすら思う。

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