151 / 207
第151話
□
翌朝、腰に甘い違和感を感じながら、アスカは清夏と薄氷に嬉々とした表情を見せた。
「許可が出ました。陛下と、お忍びで視察に行きます」
「……」
「私は行くよ」
あまりにもキラキラとした顔をしているので、さすがの清夏も薄氷も、何も言えずに頷くしかなかった。
──こっそりとお守りすればいい。王妃様には伝えずに、静かに。バレないように
二人の心は一致している。
陽春もきっと、同じように考えているはずだ。
もっとも彼のことだから、リオールを説得して堂々と随行する道を選ぶかもしれないが。
「では、いつ向かわれますか? お忍びであるならば、腕の立つ護衛を数名用意します。おそらく、陛下もそうお考えでしょう。お召し物は如何なさいましょうか……」
「拘らないよ。私が村で着ていたようなものでかまわない」
「……ですが、陛下とお忍びで向かわれるのでしょう? ……少しばかりは、着飾りたくはありませんか?」
「!」
清夏に言われ、アスカはハッとした。
視察だが、リオールには逢瀬とも伝えているわけであって、下手な格好をして隣を歩くのは失礼に値すると気付いたのだ。
「ど……どうしよう」
「……もしも、拘りがないのであれば、私にお任せいただけますか?」
「清夏に?」
「はい。かならずや王妃様にお似合いのものを用意致します」
清夏はまるで自分自身がお洒落をするかの如く、やる気に満ちた様子。
アスカは「お願いします」とひとつ頷いた。
「いつ行くかは……陛下の政務次第になると思うので、また相談して、伝えるね」
「わかりました」
頭を下げた二人に、満足気に微笑みを返し、そっと腰に手を添えた。
昨夜の余韻が、まだ微かに残っている。
街は、どのようなところなのだろうか。
活気があって、賑やかなのだろう。
──しかし、届く請願書にはあまり良くないことも書かれてある。
アスカは王妃になったのだから、その責務を全うしなければならないと燃えていた。
リオールと共に、より良い国へ。
ただの平民だった自分が、こんなことを思うようになるとは考えもしなかった。
胸に生まれた覚悟と、責任感。
これを今は、誇らしくすら思う。
ともだちにシェアしよう!

