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第152話

■■■  国王宮にて、この国唯一の王は、勝手に緩む頬に手を添え、ひとつ小さく息を吐いた。 「陽春」 「はい、陛下」  呼びかけに応じた側仕えに、視線を向けることなく続ける。 「王妃に、逢瀬に誘われた」 「それは、とても良きことでございますね」 「……忍んで、視察に行きたいからだそうだ」 「……」  陽春がそっと口を閉ざす。  ──王妃様、それは少々、あまりにも……。まるで、陛下の御心を利用しているように思えてしまいますぞ…… 「しかし……王妃は、愛らしいのだ」  リオールは手元にあった資料を伏せ、顔を上げる。 「私は少し……いや、かなり落ち込んだ。私の恋心を弄ばれている気がしなくも無かったのだ。この心を利用されているのではないかと。……けれど……『愛してる』などと言われて、どうして喜ばずにいられる?」  思い出し笑いを噛み殺すように、口元を手で覆う。  自然と浮かぶ笑みに、自分でも少し呆れてしまう。  陽春は、そんな主の様子に苦笑を零す。 「……王妃様は、とてもお美しいですからね」 「ああ。あまりに愛らしくて……昨夜は、少し無理をさせてしまった」  けれどその表情は、どこまでも穏やかで甘やかだ。 「……いつ、逢瀬に行けるかな」 「陛下、視察でございます」 「……わかっておる」  ジロっと陽春を睨みつけるが、彼は痛くも痒くもないようだ。 「視察であれば、早ければ明日にも。本日は……少々、王妃様のお身体が本調子ではないかと」 「ああ……それも、そうだな」 「それに、陛下のご準備もありますよ」 「準備?」  準備とは、なんのことだ。  目を細めて見つめてくる陽春に向かい、リオールは小さく首を傾げた。 「王妃様と、初めての逢瀬でしょう。お召し物は如何なさいますか?」 「!」 「それに、王妃様に何か贈り物をする絶好の機会ですよ」 「……流石だな、陽春」  視察といいながら、陽春も楽しんでいる。  リオールは一度静かに頷いた。 「よし。最初に王妃に贈るつもりだった宝石も、色々とあって叶わなかったからな。今回は王妃が望むもの、全てを購入しよう」 「はい。きっと王妃様も御喜びになりましょう」  ──しかし、リオールは知らなかった。  この視察と称した逢瀬で、醜い感情を知ることになるとは。  

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