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第153話
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普段の装いとは違い、少し地味だがしかしそれでも美しい姿で街の中にいるのはアスカだ。
銀色の髪はいつも見ているというのに、太陽に照らされてキラキラかがやいている。
リオールが人目を避けるように歩み寄ると、アスカは思わず背筋を伸ばす。
けれどその瞳はきらきらと、どこか浮かれているようにも見える。
「……よく似合っているな、その服」
「本当ですか……? 清夏が、選んでくれました」
目を伏せたまま微笑むアスカに、リオールは手を差し出す。
「では、参ろう。視察という名の──」
「──逢瀬、ですね」
目が合った瞬間、二人の顔がふわりとゆるむ。
けれど、そのすぐあとに少しの緊張が戻った。
王と王妃ではあるけれど、今日はただの夫夫としても隣を歩いている。
そんな不思議な距離感に、お互い少し戸惑いながらも、心はどこか弾んでいるのだ。
「へ、陛下、今日は……どのようにお呼びすれば……? 王様だとバレてはいけませんから、呼び方を変えたいのですが……」
「なるほど。……ならば、リオールか……エイリークでも構わないし、そうだな……」
「リオール……?」
「!」
名前を呼ばれ、リオールは肩を僅かに跳ねさせた。
そんなふうに呼び捨てにされるのは初めてで、これがとても擽ったかったのだ。
「あ、でもさすがに……リオール様とお呼びします」
「いいや、リオールと呼んでくれ」
「……リオール?」
「ああ! アスカ、好きだ」
「! と、突然、なんですか……」
「はは。楽しいな、視察は」
「まだ始まってませんよぉ……」
リオールは気分よく歩きだし、アスカに手をそっと握る。
にこやかな二人の様子を、少し離れたところで見ていた陽春と清夏、そして薄氷は、楽しそうな主達の姿にほっこりしている。
そして、そんな主達を守るようにしかし存在感を消して傍に立っている護衛達は、始めてみる王達の緩い姿に驚いたのだった。
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