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第155話
視察は視察、だがこの甘やかで、くすぐったい時間もまた、確かに二人だけの特別なひとときだ。
けれど──
そんな幸せの余韻に浸っていたところで、ふとアスカの背筋がぴんと伸びる。
人ごみの中から、なにかを感じ取ったようだった。
「どうした?」
「……いえ、なんでも。誰かに見られていたような、そんな気がしただけです」
気のせいかもしれない。そう言って笑うアスカに、リオールは少しだけ不安を覚えながらも、それ以上は追及しなかった。
護衛も反応をしていないということは、それほど気にしなくてもいいのかもしれない、と。
だが──
「アスカ? アスカじゃないか?」
突如後ろからかかった声に、アスカの足が止まる。
振り返った先に立っていたのは、一人の若い男性。
やや伸びた栗色の髪に、優しい笑みを湛えたその顔に、アスカは瞬時に声をあげる。
「ルカ……!? ルカなの!?」
「やっぱり! なんだよ、久しぶりすぎてわからなかったか? ……うわ、変わらないな、アスカは」
アスカが笑ってルカに駆け寄る。まるで昔の友人に再会した子どものように、無防備な笑顔で。
リオールは一歩後ろでその様子を見ていた。
アスカがあんなふうに笑うのは、珍しい──いや、見たことがないかもしれない。
「ルカ、こんなところでどうして……!」
「そっちこそ! 王都に来たって噂は聞いたけど、本当にいたんだな! アスカ、少し背ぇ伸びた?」
「やめてよ、もう……!」
笑い合うふたり。肩を軽く叩いたり、昔話に花を咲かせたり──
まるで、そこにリオールがいないかのように。
リオールは静かに、手に残った耳飾りの小箱を握りしめた。
──あの男が、アスカの昔を知っているのか
焦りにも似た感情が、胸をざわつかせた。
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