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第158話
視察を終え、王宮に戻ったアスカは国王宮でリオールと共に記録をとっていた。
その中で、あの小さく踞る子供の姿を思い出した。
「私は、知りませんでした。請願書で届いた文字としては理解していましたが、実際に……あのような幼い子供が、苦しんでいるとは……」
「……私もだ。目にしたのは初めてだ」
「……このままでは、いけないと、思うのです」
助けてあげたい。
ひもじい思いをする子供を、少なくしない。
「しかし、今すぐにできる対策など、いずれは破綻する。ひとまず何かをするのは良いが、その後は? しっかりと考えねば、それは政治とは言えない」
「……わかっております」
王妃になったからと言って、何も出来ない現状が悔しい。
拳を握れば、その手を、リオールがそっと覆うように包んだ。
「ああ、ゆっくりでも構わない。確実な解決策を考えよう。しかし、その間をあの子供が耐えられるとは到底思えん。何か、してやるのは良い。そなたはもう王妃となったのだから、行動を起こすことができる。──もちろん、責任も伴うがな」
王妃としての、行動と、責任。
それが、ズシッと重たくのしかかる。
軽率なことはできない。しかし、子供たちにはわずかでも、幸せを与えたい。
「はい……」
「だが、もし本当に何かをするというのであれば、私も力になろう。そなたの初めての王妃としての仕事を、支えるぞ」
静かに顔を上げると、リオールは穏やかに微笑んでいた。
これまで、彼が背負ってきた重荷はきっと、こんなものではない。
『支える』と迷いなく言えるのは、今までの経験があるからだ。
「……お力を、お貸しくださいますか」
「王妃が望むのであれば、いくらでも」
頷いた彼に、のしかかっていた重荷が少し軽くなった気がする。
アスカは眉を八の字にして、頬を緩めた。
「──しかし、だが」
「……?」
「ルカ、と言ったか」
「あ、はい。私の幼馴染ですね。とても力があって昔から仲が良くて──」
「気に食わない」
「え!?」
「あまりに親しげで、好意を寄せているのかと思ったくらいだ」
リオールの表情に影が落ち、どこか冷たい印象に変わる。
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