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第160話

□    翌朝、アスカは早くに目を覚まし、机に向かっていた。  机の上には、視察で得た情報を整理したものと、王宮の予算案、食料の備蓄に関する報告書がある。  それを眺めながら、昨日の子供の姿が何度も頭をよぎる。 「──何か、できるはず」  小さく、そう呟いたアスカは、一枚の紙に筆を走らせた。  文字は微かに震えていたけれど、その筆跡には確かな意志があった。  しばらくして、リオールのいる国王宮を訪ねたアスカは、手にした提案書を差し出す。 「……まずは、街で炊き出しを行うのはどうでしょうか。お腹を空かせた子供たちを、一時的にでも救えるように」  リオールは静かに書面を受け取り、目を通す。長い沈黙に不安が募るが、やがて彼は顔を上げると、真っすぐアスカを見つめた。 「予算の問題や、人員の確保も含めて、簡単ではないぞ」 「わかっています。ですが……ただ見ているだけの王妃にはなりたくないのです。私も、この国を守るひとりとして、できることをしたい」  その言葉には、覚悟があった。昨夜の悔しさも、リオールの言葉も、すべてが今の彼を後押ししている。  リオールは一度だけ目を伏せてから、再びアスカに微笑んだ。 「そなたの決意は、しかと受け取った。……誇らしく思うよ、王妃」 「っ!」 「簡単では無いが、早く進めなければならない。明日、会議を開く。そなたの提案書をもとに、大臣たちに計画をさせよう」 「あ、ありがとうございます!」  アスカは目に薄く涙を滲ませた。  目元を拭えば、リオールは穏やかに微笑んだまま、アスカの頭を優しく撫でる。 「昨日の今日で、こんなにも考えたのだな。……ちゃんと眠れたのか?」 「ぁ……はい。大丈夫です」 「大丈夫かどうかは聞いていないが……。王妃は無茶をする癖があるらしい。清夏と薄氷にはしっかりと見張らせておかねばならないな」 「そんな……!」  昨夜は確かにあまり眠れず、いい解決策がないかを考えるばかりで、清夏にも薄氷にも心配をかけてしまったが……。 「私は、健康体ですから」 「それも聞いていない」 「む……ちょっと寝てないくらい、平気です」 「まったく、子どもかそなたは」  苦笑するリオールに、しかし負けないぞとアスカも折れないでいる。  そして勝ったのはアスカだった。 「──わかった。だが、あまり無理をしないように」 「はい!」  アスカはにっこりと笑みを浮かべ、深くお辞儀をすると国王宮を後にした。

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