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第161話
国王宮を後にし、後宮の自室へ戻ってきたアスカは、扉が閉まった瞬間──ふらり、とその場に崩れ落ちた。
「……つかれたぁ……」
背筋を張っていた時間が長すぎたせいか、身体のあちこちがぎしぎしと痛む。
心地よい達成感と、じわじわ湧き上がる緊張の余韻。
そのはざまで、アスカは床にぺたんと座り込んだ。
「何をなさっているのですが王妃様。床は冷えます」
軽やかな足音と共に駆け寄ってきた清夏が、苦笑しながらアスカの手を取る。
「だって……すごく緊張した……。大真面目な顔して提案なんて、生まれて初めてで……」
「ですが、立派にやり遂げましたね。陛下があんなにも真面目な顔で頷いておいででした」
そう言いながら、清夏はアスカの頭を手を優しく撫でる。
まるでよく頑張った子を褒めるようだ。
そこへ、静かに近づいてきたもう一人の影が、そっと厚手の膝掛けをアスカの肩にかけた。
「お疲れ様でした。王妃様」
「う、うすらい……ありがとう……」
薄氷は、僅かに微笑んでいる。
その手つきはどこまでも丁寧で、アスカの緊張で冷えた体を解すように、肩を揉んでくれた。
「初めての提案に、初めての責任。それでも背を向けず進もうとするのは、誠に立派です」
「ぁ……や、やめてください、泣いてしまう……!」
目頭を押さえながら冗談めかして言うと、清夏が「泣いてもいいですよ」と笑い、薄氷は少しだけ視線を逸らした。
そうしてアスカは、ふたりに囲まれながらふうっと深く息を吐く。
「でも、まだ始まったばかりだ」
「ええ、これからが本番です。準備も人手も、考えることは山ほどあります」
「はい……それでも、やるって決めたからには、絶対に、途中で投げ出したりしない」
そう宣言するアスカの瞳には、弱さはない。
王妃としての最初の第一歩だ。
アスカは静かに立ち上がると、これから忙しくなるぞと深く息を吸い込んだ。
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