162 / 207
第162話
■■■
アスカから渡された提案書を手に、リオールは会議の間に来ていた。
「これより、会議を始めます」
とある議題から始まり、リオールは静かに聞いていた。
ある程度会議が進むと、提案書をそっと机に差し出す。
「これは王妃からの提案書である」
「なんと! 王妃様から!」
ざわざわと空間が揺らぐ。
それは元平民の王妃が何を言い出したのかと、興味からくるものだ。
ひとつ咳払いをすればそれは止む。
「先日、王妃と街へ視察に赴いた」
「!」
聞いていなかった視察に、いくつかの大臣らが顔色を悪くする。
民の様子を王自ら確認したということ、そして王妃からの提案書。
大臣らは少しばかり思い当たる節があり、落ち着かないでいる。
「子供が、飢えて倒れている姿を目にした。──これは、どういう事だ」
「陛下、そのようなことより、何故我らに何も告げずに視察になどと──」
「そのようなこと……?」
リオールの眼光が鋭くなり、その低い声に、大臣たちはハッと息を呑む。
空気が一瞬で張り詰めた。
リオールは静かに立ち上がり、提案書の一部を手に取る。
「民の暮らしを知るための視察に、なぜ許可が必要だ? ──知らねばならぬから、見に行った。ただそれだけのことだ」
「……っ」
「そして、王妃はその目で確かめ、自ら考え、ここにこうして提案している」
リオールの声には、威厳と揺るがぬ意志があった。
その場にいる全員が、自然と口をつぐむ。
「これは、ただの情けではない。国を支える礎を守るための、第一歩だ」
「……仰る通りにございます」
誰かがぽつりと呟き、それを皮切りに小さく頷く者が現れる。
「ここの提案にある炊き出しは、確かに、一時しのぎに過ぎぬ。だが、その一時に救える命があるのなら、動かぬ理由はあるまい」
鋭く、しかしどこか静かな熱を帯びたその言葉に、誰も反論することはできなかった。
リオールは最後に周囲を見渡し、きっぱりと告げる。
「明日より準備に入る。人員の選出と予算の割り振りを急げ。──これは、王命である」
大臣たちは反論することなく、静かに深く礼をした。
ともだちにシェアしよう!

