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第162話

■■■  アスカから渡された提案書を手に、リオールは会議の間に来ていた。   「これより、会議を始めます」  とある議題から始まり、リオールは静かに聞いていた。  ある程度会議が進むと、提案書をそっと机に差し出す。 「これは王妃からの提案書である」 「なんと! 王妃様から!」  ざわざわと空間が揺らぐ。  それは元平民の王妃が何を言い出したのかと、興味からくるものだ。  ひとつ咳払いをすればそれは止む。 「先日、王妃と街へ視察に赴いた」 「!」  聞いていなかった視察に、いくつかの大臣らが顔色を悪くする。  民の様子を王自ら確認したということ、そして王妃からの提案書。  大臣らは少しばかり思い当たる節があり、落ち着かないでいる。 「子供が、飢えて倒れている姿を目にした。──これは、どういう事だ」 「陛下、そのようなことより、何故我らに何も告げずに視察になどと──」 「そのようなこと……?」  リオールの眼光が鋭くなり、その低い声に、大臣たちはハッと息を呑む。  空気が一瞬で張り詰めた。  リオールは静かに立ち上がり、提案書の一部を手に取る。 「民の暮らしを知るための視察に、なぜ許可が必要だ? ──知らねばならぬから、見に行った。ただそれだけのことだ」 「……っ」 「そして、王妃はその目で確かめ、自ら考え、ここにこうして提案している」  リオールの声には、威厳と揺るがぬ意志があった。  その場にいる全員が、自然と口をつぐむ。 「これは、ただの情けではない。国を支える礎を守るための、第一歩だ」 「……仰る通りにございます」  誰かがぽつりと呟き、それを皮切りに小さく頷く者が現れる。 「ここの提案にある炊き出しは、確かに、一時しのぎに過ぎぬ。だが、その一時に救える命があるのなら、動かぬ理由はあるまい」  鋭く、しかしどこか静かな熱を帯びたその言葉に、誰も反論することはできなかった。  リオールは最後に周囲を見渡し、きっぱりと告げる。 「明日より準備に入る。人員の選出と予算の割り振りを急げ。──これは、王命である」  大臣たちは反論することなく、静かに深く礼をした。

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