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第166話
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アスカは薄氷から提案書が通り、大臣達が動き出していると聞かされ、ワッと喜んでいた。
行動が早くて、嬉しい。
少しでも早ければ、人々が苦しむ日々も少なくて済むだろう。
「陛下は、今、どちらに?」
「はい。大臣たちから書状を受け取った後、厨房に向かわれた模様です」
「厨房へ……?」
「そこで料理をなさった様子でした」
「料理……!?」
アスカはその時思い出した。
あの不格好で、しかし甘かった林檎のことを。
林檎の皮を剥くのに、かなり苦戦していたリオールのことを。
「へ、陛下に、お怪我は……っ?」
「特に、報告は聞いておりません」
「なら、よかった……」
人には得手不得手がある。
これに関しては王様も例外ではないようだ。
失礼かもしれないが、かなり不安になる包丁の扱い方だったので、あまり厨房には行かないでほしいとすら思っているが、これはアスカだけの秘密である。
アスカはひとつ欠伸を零した。
ここ最近、眠れてはいるのだがどこか落ち着かなくて深い睡眠とまではいかなかった。
そのせいか、昼夜問わずやけに眠たくなる。
「王妃様、お休みになられますか?」
清夏が問うてくるのを、首を振ってやめておいた。
今、陛下や大臣達が働いてくれているのに、休むわけにはいかない。
「ん、ふあ……」
「ほら、あくびが」
「大丈夫……少し、眠たいだけで……」
「……何か、お飲み物をお持ちしましょうか?」
「うん。おねがいします……」
そう、眠気を堪えていたアスカだったが、お茶を入れて戻ってきた清夏は、机に突っ伏して眠るアスカと、そんな彼の肩に掛布をそっと掛けている薄氷を見て苦笑した。
「王妃様はお休みに?」
「ええ。お疲れが出たのでしょう。ここ数日はずっと緊張したご様子でしたし」
「そうですね。……ですが、それだけではない気がします」
「え?」
清夏はそっとアスカに近づく。
「最近、お食事を見て顔を顰める時があります」
「? そうでしたか?」
「ええ。それに、眠りも浅いようですし」
薄氷は眠りが浅いようだとは思っていたが、食事のことに関しては気がついていなかった。
「ご体調があまり良くないのでしょうか。一度医務官に診てもらう方が……」
「しかし、王妃様は頑固なところがございますからね。今は炊き出しのことに集中されておいでです。おそらく、それが終わるまでは……」
「そうですね……」
王妃には王妃としての悩みがあるが、それに仕える従者も悩みがある。
しかし、アスカに対する悩みなど、可愛いものだ。
素直で、優しい心の持ち主である主には、自分の体を大事にしてほしいというくらいしか、文句はない。
「あまりにもお辛そうであれば、その時は何とか説得しましょう」
「ええ。そうですね」
二人はアスカの寝顔を見ながら、静かに頷いたのだった。
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