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第172話

■■■  アスカが深い呼吸をし始めると、リオールはそっとその顔を覗き込んだ。  穏やかな寝息。緊張がほどけたような、少し泣きはらした目元。  ようやく、眠れたのだと、リオールは胸の奥に小さな安堵を抱いた。  今、この腕の中にいる命はふたつかもしれない。  それを思うと、不思議と心の奥が震えるようだった。 「……そなたは、本当に強いな」  小さな声でそう呟き、アスカの髪を優しく撫でる。  責任と不安を抱えながら、それでも前に進もうとする姿は、何より誇らしい。  リオールはそっと寝台に身を横たえ、アスカを優しく抱きしめた。  ぬくもりを確かめるように、呼吸を重ねる。  どんな未来が待っていても、そばにいよう。  支えて、守って、共に歩もう。  それが、夫として、そしてこの国の王として、自分がなすべきこと。 「……おやすみ、アスカ」  静かに目を閉じる。  夜はまだ深く、その眠りはどこまでもあたたかかった。 □  目を覚ましたリオールは、そっと体を起こし、まだ眠るアスカを見つめる。  そして、昨日彼が医務官と話していた内容を思い出し、陽春を呼んだ。 「目を覚ました王妃の体調が優れぬかもしれん。すぐに処置できるように、準備をさせておけ」 「はい」 「清夏か薄氷はいるか」  扉の向こうに向けて声をかければ、二人が現れる。 「今日の王妃の衣についてだが、体に負担をかけないように緩いものにしてくれ。それから……朝食は王妃が食べたいと望んだものがあれば、何でも用意するように」 「かしこまりました」 「……私は少し離れるが、何かあればすぐに報告するように」  そっとアスカの頬を撫でる。  無理をしないと約束はしたが、ちゃんと守ってくれるだろうか。  信頼していない訳では無いが、どうにも彼は無理をするくせがある。 「ギリギリまで寝かせてやってくれ」 「はい」  アスカの額に、最後にひとつ、静かに口づけを落とす。  代わりに、自身が働けばいい。  リオールは寝台から抜け出すと、ふっと息を吐いて国王宮に戻った。

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