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第173話

 定刻になり、リオールはアスカと共に、王宮の正門前にいた。  そこでは輿が整えられている。白と金の布に包まれた美しい輿に、アスカは興味津々のようだ。 「これに乗って、行くのですか?」 「ああ。ところで、体調はどうだ? 朝起きたときに気分が悪いということはなかったか」 「はい。今日は大丈夫でした」 「衣は? きつくはないか」 「これも……清夏たちがゆるめに仕立ててくれました。苦しくはありません」  ひとつひとつ、丁寧に確認するリオールに、アスカは少しだけ笑う。  リオールはホッとして、アスカの手を取った。  昨日のように震えてはおらず、静かに胸を撫で下ろす。 「もしかして、緊張されておいでですが?」 「当然だろう。妊娠しているかもしれぬ王妃が、人の中に出て行くのだ。これが、心配せずにいられると思うか?」 「……ありがとうございます。でも、やりますよ。ちゃんと、私の目で見て、渡したいのです」  そっと手を握られる。  その手は、確かに前を向く意志を宿しているように思えた。 「……顔色も、悪くないな」 「はい。今日は、きっと大丈夫です」  二人は輿に乗り、正門を出る。  そうして王都の通りへと出ると、民たちの視線が集まり始めた。  輿の中、リオールはもう一度だけ、念を押すように言う。 「そなたが倒れたら、私の心がもたぬ。……何があっても、無理はしない。それを忘れるな」 「ええ、忘れません」  アスカの静かな微笑みと共に、輿は炊き出しの広場へ。近づくにつれて、アスカの表情が少しずつ強ばっていく。   「大丈夫だ、アスカ。上手くいく」 「……はい」 「肩の力を抜いて。……そうだ」  一度深呼吸をした彼の目が、リオールを見つめる。  リオールはふっと柔らかく微笑み、そっと口付けを交わした。

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