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第177話
リオールは一度政務に戻っており、部屋にはアスカひとりきり。
夜が訪れて一人寝台で横になると、段々不安が膨れていくのを実感した。
お腹は、庇ったからきっと、大丈夫。
──けれど、何かがあったら?
既にお腹の中にいるかもしれない子供に、何かしらの影響があるかもしれない。
「……ふっ、は……」
何かあれば、どうすればいい。
子供にも、番で父親になるリオールにも、どう償えばいいかわからない。
「っは、はぁ……っ、だ、誰、か……」
呼吸が浅く、速くなる。
苦しくて、視界が狭くなっていくような、そんな感覚。
「失礼します。──王妃様、いかがなさいましたか」
近くに控えていたのは薄氷だ。
アスカの姿を見て、眉を寄せると、すぐに傍に駆け寄る。
「ゆっくり、呼吸をいたしましょう。大丈夫です。ここには王妃様を傷つけるような者はおりません。私も傍におりますので、安心してください」
「っひ……ふぅ……っ」
「お上手です」
薄氷の手を取り、強く握る。
今は誰でもいい。傍にいてほしかった。
「っ、はぁ……っ、は、はぁ……」
次第に呼吸が落ち着いていく。
涙がこぼれて、それを優しく柔らかい布で拭われた。
ある時ふっと力が抜けて、深く息を吐き出す。
そうすればようやく息が整い、アスカはぼんやりと天井を眺めた。
「お飲み物を用意しますので──」
「ぁ……」
下がろうとする薄氷を、アスカの小さな声が引き止めた。
薄氷は動きを止め、少し考えたから口を開く。
「……よろしければ、陛下にお越しいただくよう、お願いしてきましょうか」
「……」
アスカが静かに目を伏せる。
今日は街にまで出かけているので、きっと疲れているはず。それなのに、お呼びするのはどうか、と思い留まった。
「王妃様、こういう時は頼られる方が、陛下も安心できると思います」
「……陛下も?」
「はい。王妃様がおひとりで抱え込み、苦しい思いをしているのではないかと心配になるより、そのお気持ちをお伝えいただける方が安心できるものです」
薄氷の言葉には、確かにと納得できるものがあった。
もしも、逆の立場だったら──アスカは素直な気持ちを、リオールに教えてほしいと思うはず。
「それなら……私が、陛下のもとに──」
「いいえ、それはいけません。ここで暫くお待ちください。すぐに人を向かわせますので」
いつになくきっぱりとした声色だ。
アスカは小さくなって、「うん」と返事をした。
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