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第179話

 陽だまりのような光が、あたり一面に広がっていた。  空は青く澄み渡り、どこかで花の香りが揺れている。  アスカはいつの間にか、その中にいた。  手を伸ばせば届きそうなほどの近さに、リオールの姿がある。  そして──リオールの腕には、小さな命が抱かれていた。  その子はころころと笑い、アスカを見上げた。  ふっくらとした頬、透き通るような榛色の瞳。  どこか自分にも、リオールにも似ていて──愛しさが溢れた。 「……ああ……」  アスカは思わず声をこぼし、そっと手を伸ばす。  ちいさな指がきゅっと握り返してくれて、それだけで、胸がいっぱいになった。  言葉は何もいらなかった。  ただ、リオールと子供と三人で、静かに笑い合う。  それだけで、幸せで、満たされていた。  ──夢だと、どこかで分かっていても。  この温もりだけは、確かに心に残った。    ゆっくりと目を開ける。  淡い光が差し込む寝室で、アスカはぼんやりと天井を見つめた。  涙が、ひとすじこぼれ落ちていた。  けれどそれは、不安や悲しみの涙ではなく、理由は分からないけれど、とても、あたたかくて── 「……アスカ?」  隣で身じろぎしたリオールが、すぐに気づいて声をかけてくれる。  心配そうにのぞき込むその瞳に、アスカは瞬きをして、微笑んだ。 「どうした。嫌な夢でも見たのか……?」 「……いいえ」  小さく首を振りながら、アスカはぽつりと呟いた。 「なんだか……幸せな夢を見ていた気が、します。とても、あたたかくて……」  その声は少し掠れていたけれど、震えてはいなかった。  リオールはゆっくりとアスカの頬を撫で、額にそっと口付けを落とした。 「なら、よかった」  アスカはその言葉に、もう一度目を細めた。  夢の内容は思い出せない。それでも、確かに心があたたかくて、幸せだと、感じられた。

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