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第181話
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その日ルカは、街中に流れた王宮からの報せにギョッとした。
先日行われた王妃様が民を思って発案されたという炊き出し。かなりの人数が集まったという噂は聞いていたが、その時に起こった事件は知らなかった。
というのも、知っている者たちは巻き込まれるのは御免だと、みんな固く口を閉ざしているらしい。
それが、貼りだされた紙には『炊き出しをした王妃様の背をわざと押し、転倒させた不届き者がいる』と書かれていた。
しかも、王妃様がご懐妊されていたということも書かれてある。
いくら知らなかったとはいえ、王族に手を出したのは事実。
最近兵士が多く彷徨いているとは思っていたが、犯人はまだ掴まっていないらしく、捜索中らしい。
そして、犯人が捕まらない限りは炊き出しは行われないことも書かれていて。
「……」
ルカはしかし、どうして民の為に動いてくださった王妃様に、そのような不敬を働くことができたのだろうか、と一人首をかしげていた。
「王妃様って、平民の出の方って聞いたけど、本当かい?」
「そうみたいだ。炊き出しの時、少しだけお姿を拝見したけど、とても親しみやすくお綺麗で、穏やかな方に見えたよ」
貼り紙の近くで、二人の男たちが話をしているのが聞こえ、ルカは聞き耳を立てる。
「お名前はなんというの? 知ってる?」
「いやぁ、どうだったかな……陛下が王妃様に駆け寄った時に『アスカ』と呼んでいた気もするが……」
その名前を聞いた途端、ルカは町人らに駆け寄っていた。
「おい! 今の話は本当か!」
「は? え? 誰だ兄ちゃん……」
「今の、王妃様のお名前だよ! アスカっていうのは、本当か!?」
驚いている彼らのうちの、一人が頷く。
「そう聞こえたってだけさ。本当かどうかは知らない」
「か、髪色は? どんなだった!」
「髪色……? ああ、確か、とても綺麗な銀色さ。陽の光が反射して、眩しかったよ」
ルカは頭の中で幼馴染のアスカを思い出した。
先日、数年ぶりに再開した彼を。
王都に行ったとは聞いていたが、まさか……王妃様になっていただなんて。
きっとそうなるまでに様々なことがあったのだろう。
それなのに、まさか、民から裏切りのようなことをされるだなんて。
ルカの心に、メラメラと怒りが湧いてくる。
「なあおい、あんたらはその事件を知ってるのか?」
「……少し見ただけさ」
アスカの名前を知っていた男が、少し間を空け、視線を逸らして言う。
これは、何かを隠している。
静かに目を細め、彼を見たルカは、サッと右手を差し出し、僅かに微笑んだ。
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