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第182話

「俺はルカってんだ。最近ここらにやってきて、話し相手がいなくってさ。よかったら付き合ってくんねえか? 酒でも飲もう。俺の奢りだ。」 「えぇ……?」  戸惑う男に、ルカは愛想のいい笑顔を浮かべたまま、ぐいっと再び強く手を差し出す。 「ほら、とりあえず、握手!」 「おぉ、俺ぁ、キクリだ」 「キクリな。よろしく頼むぜ」  強引に握手をして、キクリの肩に腕を回す。  驚いて足元をふらつかせた彼は、戸惑いながらもう一人の男に視線を向ける。 「こいつはシオサっていうんだ」 「シオサ! あんたも一緒に酒を飲みに行くかい? 俺の奢りだぜ」 「ぁ、う、うん。いこうかな」  シオサが頷いたので、ルカは彼とも肩を組み、近くの酒屋に入った。  酒屋に入ってから少し。  ルカは男達に酒を勧め、自身は自分のペースでゆっくりと飲んでいた。 「それにしても、炊き出しが無くなるんじゃ、みんな、困るんじゃないのか?」 「そりゃあそうよ。だがなぁ……」 「お? なんかあんのか?」  キクリは酒を煽ると、机にトンと盃を置く。  少し酒に酔っている彼は、頬を赤くさせていた。 「王妃様ってのはな、平民の出だろう? みんな、羨ましがってんだよ」 「羨ましい?」 「ああ。だってよぉ? ここらには今日の飯すら手に入らないやつもいるわけさ。それが、同じ平民だった王妃様が、まるで初めから王妃であったかのように飯を振る舞いやがる。羨ましいというより、妬ましい!」  ルカは『ふーん』と思いながら、視線をキクリに向けたまま盃を回す。  彼の酔いがまわるのを待っていた。 「偉くなったつもりかぁ? 国王陛下と結ばれるのはオメガだけだろ? つまり、王妃もオメガなんだろう? オメガなんて、本当は何も出来ない愚図じゃねえか!」 「そ、そんなこと、言っちゃいけないよ……!」  キクリの言葉に、シオサが慌てだした。  ルカは思わず、盃を持つ手に力が入る。  ──オメガが、愚図だと?    ルカは知っている。  アスカが、家族に迷惑をかけないようにと誰よりも畑で力仕事をしていたこと。  発情期の時も、一人で隠れて過ごすために、納屋に入って小さくなっていたこと。  彼は間違いなく、誰よりも気を配って、家族のためになることを考えられる人だ。 「平民で、オメガで……それなのに今や王妃様だ。俺らに施しを与えてくださる! ……いいご身分さ」 「なら、あんたが王妃様を転倒させたのか」  つい、柔らかい言葉を選ぶことも無く、直球で問いかける。  すると、勢いの良かったキクリは、静かに視線を机に落とした。

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