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第186話

■■■  王妃が懐妊したという報せが広まり、王宮では喜びの声と祝いの言葉が飛び交った。 だが同時に、「王妃を傷つけた民を早く処罰すべきだ」という声も上がっていた。  しかし、兵士に捜索をさせているが、手掛かりがない。  民たちが結託をしているのか、なかなか見つからない犯人に、リオールは苛立ちを募らせていた。  アスカとお腹の子が無事であったことは何より喜ばしいのだが、──しかし許せない。  リオールはアスカに相談することも無く、事のあらましと、今後のことについて街中に貼り紙をさせた。  犯人が捕まるまで、炊き出しは行わない。  それはもう心に決めていて、例えアスカになんと言われようと譲るつもりはなかった。 「へ、陛下! 王妃様がお見えです!」 「なっ!」  貼り紙をしたその日の夜。  安静にしているべきアスカが、突然国王宮にやってきた。  傍に控える清夏と薄氷は、どこか不安そうな顔をしている。  そして、アスカはというと── 「陛下、お話があります」 「……」  少し、怒っていた。 「話は聞くから、ここに、座ってくれ。……全く。安静にしておくように言われただろう? どうして私を呼ばずにそなたがここに来るのだ」 「……陛下にお伝えしなければならないことができました」 「……もしや、怒っているのか……?」 「ええ」 「!」  ハッキリと肯定され、さすがのリオールもたじろいでしまう。  怒らせるようなことを、してしまったのか。 「貼り紙を、なされたと」 「ぁ……」 「犯人が捕まるまで、炊き出しは行わない、と」 「そ、それは、仕方がないだろう。王妃が危険にさらされたのだぞ」 「ですが! ほとんどの民には関係の無いことでしょう!」  ムッと顔を歪めた彼に、リオールはそっと視線を逸らした。 「仮にそうするとしても、私に一言、ご相談してくださっても良いのでは……!?」 「……すまない」 「これは、私が始めたこと。私にだって、考える権利があるはずです……!」  アスカの顔が見れない。  怒っている。こんなにも感情を剥き出しにする姿は、初めてだ。  普段、誰かに怒られることなどほとんどない。どうすればいいのかわからず、リオールはただ両手をもてあそんだ。 「炊き出しを行わないなんてことをして、もしも……私を押したその者が、他の民から迫害を受けたらどうするのですか……」 「……」 「何か理由があってのことでしょう。……私とて、子が流れていたのなら、おそらく冷静ではいられませんが、そもそも……彼らは私が懐妊しているとも知らなかったのだから」  アスカの、怒りよりも慈悲を帯びた声に──リオールは、ゆっくりと顔を上げた。

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