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第186話
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王妃が懐妊したという報せが広まり、王宮では喜びの声と祝いの言葉が飛び交った。
だが同時に、「王妃を傷つけた民を早く処罰すべきだ」という声も上がっていた。
しかし、兵士に捜索をさせているが、手掛かりがない。
民たちが結託をしているのか、なかなか見つからない犯人に、リオールは苛立ちを募らせていた。
アスカとお腹の子が無事であったことは何より喜ばしいのだが、──しかし許せない。
リオールはアスカに相談することも無く、事のあらましと、今後のことについて街中に貼り紙をさせた。
犯人が捕まるまで、炊き出しは行わない。
それはもう心に決めていて、例えアスカになんと言われようと譲るつもりはなかった。
「へ、陛下! 王妃様がお見えです!」
「なっ!」
貼り紙をしたその日の夜。
安静にしているべきアスカが、突然国王宮にやってきた。
傍に控える清夏と薄氷は、どこか不安そうな顔をしている。
そして、アスカはというと──
「陛下、お話があります」
「……」
少し、怒っていた。
「話は聞くから、ここに、座ってくれ。……全く。安静にしておくように言われただろう? どうして私を呼ばずにそなたがここに来るのだ」
「……陛下にお伝えしなければならないことができました」
「……もしや、怒っているのか……?」
「ええ」
「!」
ハッキリと肯定され、さすがのリオールもたじろいでしまう。
怒らせるようなことを、してしまったのか。
「貼り紙を、なされたと」
「ぁ……」
「犯人が捕まるまで、炊き出しは行わない、と」
「そ、それは、仕方がないだろう。王妃が危険にさらされたのだぞ」
「ですが! ほとんどの民には関係の無いことでしょう!」
ムッと顔を歪めた彼に、リオールはそっと視線を逸らした。
「仮にそうするとしても、私に一言、ご相談してくださっても良いのでは……!?」
「……すまない」
「これは、私が始めたこと。私にだって、考える権利があるはずです……!」
アスカの顔が見れない。
怒っている。こんなにも感情を剥き出しにする姿は、初めてだ。
普段、誰かに怒られることなどほとんどない。どうすればいいのかわからず、リオールはただ両手をもてあそんだ。
「炊き出しを行わないなんてことをして、もしも……私を押したその者が、他の民から迫害を受けたらどうするのですか……」
「……」
「何か理由があってのことでしょう。……私とて、子が流れていたのなら、おそらく冷静ではいられませんが、そもそも……彼らは私が懐妊しているとも知らなかったのだから」
アスカの、怒りよりも慈悲を帯びた声に──リオールは、ゆっくりと顔を上げた。
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