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第187話

 胸の奥がぎゅぅっと痛むのを感じる。  リオールは、王としてではなく、一人の男、そしてアスカの番として、怒っていた。  あの日、悪意に気づけなかった。  支えることのできなかった。  ──そんな、情けない自分に。  最愛の人を、守れなかった。  それが怖くて、悔しくて、怒りにすり替えたのだ。 「本当は……怖かったのだ」 「……怖い?」 「ああ。……民からの悪意で、そなたと、子供が消えてしまったら、どうしようと」 「陛下……」 「だから、怒った。許せなくて……。しかし、そなたの言うように、怒りに身を任せた私の行動は、良くなかったかもしれない」  本当のことを、素直に打ち明ける。  そうすれば、アスカは、ようやく少し表情を緩めた。 「……ちゃんと、話してくれて、ありがとうございます」 「……ああ」 「それなら、また……一緒に考えてください。どうするべきかを」 「ああ、もちろんだ。そなたと共に歩むと決めたからな」  アスカの手が、そっと頬に触れる。  戸惑いながらも、その温もりに目を閉じれば、唇に重なるあたたかさに、心がじんわりとほぐれていく。 「愛してます、リオール様。怒ってくださったことも、本当は嬉しいのですよ」 「……そうなのか?」 「ええ。私のことを、愛してくださっている証拠でしょう?」 「……はは、確かに、そうだな」  包むようにその細い体を抱き締めれば、背中に回される手。  愛しくて、たまらないのだ。  この体温が、何よりも。 「明日、大臣らを集めて、どうするのか話し合おうと思う」 「はい」 「アスカはどうか、部屋で安静にしていてくれ。今回のようなことは、しないと誓うから」 「……わかりました。約束ですよ」  そうして、柔らかい雰囲気が部屋を満たした。

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