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第188話

 夜を共に過ごした二人は、朝早くに陽春に声を掛けられて目を覚ました。  珍しくどこか慌てた様子の彼に、リオールは「何事だ」と微かに掠れた声で問う。 「それが──犯人が、出頭してきました……!」 「何っ?」  リオールは驚き声を出して、アスカも静かに目を見張る。 「それが、イサクという男でして……、王妃様のお知り合いだというルカと名乗る者が連れてきたようなのですが……」 「えっ!? ルカが!?」  アスカは慌てて清夏と薄氷を呼び、朝の支度をさせる。  そんな様子を見ていたリオールも、すぐさま支度をすると、二人は共にイサクとルカがいるという広場に向かった。  広場では、多くの大臣や従者たちが集まり、ざわめいていた。  王と王妃が現れると、道が開き、中心にいたルカとイサクと呼ばれる男の姿が見える。 「ルカ──!」 「あっ、アス──って、いけね……王妃様!」  頭をかくようにして笑うルカ。  イサクは拘束され、地面に膝をついていた。 表情は読めなかったが、どこか──諦めと、わずかな迷いが滲んでいるようにも見えた。 「ルカ、どうして……」 「いや、ちょっとな。──それより、懐妊したんだって? おめでとう」 「ぁ……ありがとう……」  親しげな様子で何よりだが、リオールはひとつ咳払いをする。  シンとした広場で、リオールに視線が集まった。 「ぁ……ルカ、こちらは国王陛下で……」 「ああ。国王陛下にご挨拶申し上げます。私は王妃様と同じ村で育ち、幼馴染であるルカと申します」  国王を前にして、恐れる様子のないルカに、リオールは、ふむ、と頷いた。 「ルカ、そなたはどうしてここに?」 「私がこの者──イサクを説得し、ここに連れて参りました」 「何……?」  ざわ、と広場の空気が動く。  しかし、ここで長話をしていては、大臣や従者の仕事が止まってしまうことに気が付き、リオールは場所を移そうと、陽春を呼んだ。 「イサクは一度、牢へ。アスカとルカは私と共についてきなさい」  踵を返したリオールは、国王宮へと足を向ける。  少し歩いて謁見室に行くと、玉座に座りひとつ息を吐いた。

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