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第189話

   アスカとルカはリオールの前に並んで座った。  静寂が落ちる。 「……さて。話してもらおうか、ルカ」  静かだが威厳を帯びた声が、空気を震わせる。  ルカは一度だけ息を吐いてから、視線を真っ直ぐリオールに向けた。 「イサクは、元々、真面目に暮らしていた男だったようです。ですが、数年前に貧しさから家族を失い、それ以来、希望を失い、働くことすらできなくなったと」 「……」 「心の奥に、国に対する恨みがあるようです。助けを求めても、誰も何もしてくれなかった、と」  ルカの言葉に、アスカが唇を噛んだ。  数年前といえば、まだリオールが皇太子である頃。  その助けを求める声は、皇太子には届いてすらいなかったのだ。 「それなのに、平民の出である人物が、王妃となり、そして民たちに施しを与えているのが、許せなかったようです」 「……なんと」  リオールもアスカも、驚いたがしかし、なるほどと理解ができた。  もっと早く、手を差し伸ばすことができていたのなら、イサクも家族を失わなかったかもしれない。  アスカはそっと自身のお腹を撫でた。  家族を失う辛さ、それと似たようなものを最近感じたばかりだ。  ──静かに、アスカが口を開いた。 「……その方に、お会いしてもいいですか」  ルカが少し驚いた顔をして、リオールは眉をひそめる。 「アスカ……それは」 「危険だと仰るのはわかります。ですが、私自身の口で、確かめたいのです」 「……」 「この国が彼に何をできなかったのか。彼が、なぜあの日、ああしたのか。私が王妃である以上、知らなければならないと思うのです」  リオールはしばらく言葉を失っていたが、アスカの真っ直ぐな目を見て、ゆっくりと頷いた。 「わかった。ただし、私も同席する。それで構わないか?」 「……はい。ありがとうございます」  ルカが小さく笑い、目を細める。 「やっぱ、アスカは変わらないな」 「……うるさい」  そんなやりとりに、ほんの少し空気が緩んだ。  

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