191 / 207

第191話

□ 「陛下、私はイサクを許そうと思います」 「な、に……?」  ルカの待っていた謁見室に戻った二人。  そこでしばらく沈黙をしていたアスカが、不意にそう言った。  しかし琥珀色の瞳に込められた思いは、簡単には揺るぎそうにはない。 「私は、許します。ですが……示しがつかないというのも、わかります」 「……」 「ですので、あとは……陛下がお決め下さい。慈悲をもって、処罰をお与えください」  彼を痛めつけてはいけない。もう、十分に心は痛んでいる。  その思いを込めて言えば、リオールは深く息を吐いた。 「……わかった。そなたが許すのならば、私が必要以上に処罰を下すのもおかしな話だ。……しっかりと考えよう」  アスカは安心して、胸を撫で下ろす。  そして、リオールに近寄りそっとその逞しい体に腕を回した。 「! な、なんだ、どうした」 「いえ。……貴方様がお優しい方で、よかった」 「……そうであろうな。……親しげな様子をまざまざと見せつけおって」 「え……? えっ!?」  突如、声色を変えたリオールに、アスカはドキッとする。  そして、そばに居たルカを見れば、彼はほんのり口元に笑みを浮かべていた。 「陛下! まだ、まだルカのことをおっしゃっているのですか!?」 「ああ。さっきも、なんだ……アスカと呼びそうになっていたではないか!」 「私の、幼馴染なのです! ずっとアスカ、ルカと呼びあっていたのですから、仕方ないでしょう!」  あたふたするアスカの耳に、ルカの笑い声が聞こえてくる。 「ふふ、変わらないな。アスカは昔から、優しいくせに抜けてて、怒られるとすぐあたふたする」 「ルカ! 今はそんな話をする場では……!」  アスカが赤くなって抗議すれば、彼氏は肩をすくめて笑う。  リオールはというと、腕を組みながら、しっかり不機嫌そうにしている。 「まったく。……アスカのこととなると、どうにも冷静ではいられぬな」 「……リオール様」 「心配するな。妬いてはおるが、信じてもいる」  そう言って、そっとアスカの手を取る。  その手を握り返したアスカの頬には、ようやく穏やかな微笑みが戻っていた。 「それにしても……ルカよ。なかなかの胆力だったな。犯人を説得し、王宮へ連れて来るとは」 「それほどでも。まあ……こいつのことは、昔っから放っておけない性分なんで」  ルカの視線は、アスカへ。  優しく、少し懐かしげなまなざしに、アスカは照れ臭そうに視線を逸らす。 「今は、俺や家族の代わりに、ちゃんとそばにいてくれる人がいるから、安心してます」  それは、リオールに向けた言葉でもあった。  リオールは少し驚いた顔をしたあと、静かに、しかし誇らしげに頷く。 「任せておけ。アスカの隣は、私の居場所だからな」  ふたりの男の言葉に、アスカの胸がじんわりとあたたかくなった。  

ともだちにシェアしよう!