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第191話
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「陛下、私はイサクを許そうと思います」
「な、に……?」
ルカの待っていた謁見室に戻った二人。
そこでしばらく沈黙をしていたアスカが、不意にそう言った。
しかし琥珀色の瞳に込められた思いは、簡単には揺るぎそうにはない。
「私は、許します。ですが……示しがつかないというのも、わかります」
「……」
「ですので、あとは……陛下がお決め下さい。慈悲をもって、処罰をお与えください」
彼を痛めつけてはいけない。もう、十分に心は痛んでいる。
その思いを込めて言えば、リオールは深く息を吐いた。
「……わかった。そなたが許すのならば、私が必要以上に処罰を下すのもおかしな話だ。……しっかりと考えよう」
アスカは安心して、胸を撫で下ろす。
そして、リオールに近寄りそっとその逞しい体に腕を回した。
「! な、なんだ、どうした」
「いえ。……貴方様がお優しい方で、よかった」
「……そうであろうな。……親しげな様子をまざまざと見せつけおって」
「え……? えっ!?」
突如、声色を変えたリオールに、アスカはドキッとする。
そして、そばに居たルカを見れば、彼はほんのり口元に笑みを浮かべていた。
「陛下! まだ、まだルカのことをおっしゃっているのですか!?」
「ああ。さっきも、なんだ……アスカと呼びそうになっていたではないか!」
「私の、幼馴染なのです! ずっとアスカ、ルカと呼びあっていたのですから、仕方ないでしょう!」
あたふたするアスカの耳に、ルカの笑い声が聞こえてくる。
「ふふ、変わらないな。アスカは昔から、優しいくせに抜けてて、怒られるとすぐあたふたする」
「ルカ! 今はそんな話をする場では……!」
アスカが赤くなって抗議すれば、彼氏は肩をすくめて笑う。
リオールはというと、腕を組みながら、しっかり不機嫌そうにしている。
「まったく。……アスカのこととなると、どうにも冷静ではいられぬな」
「……リオール様」
「心配するな。妬いてはおるが、信じてもいる」
そう言って、そっとアスカの手を取る。
その手を握り返したアスカの頬には、ようやく穏やかな微笑みが戻っていた。
「それにしても……ルカよ。なかなかの胆力だったな。犯人を説得し、王宮へ連れて来るとは」
「それほどでも。まあ……こいつのことは、昔っから放っておけない性分なんで」
ルカの視線は、アスカへ。
優しく、少し懐かしげなまなざしに、アスカは照れ臭そうに視線を逸らす。
「今は、俺や家族の代わりに、ちゃんとそばにいてくれる人がいるから、安心してます」
それは、リオールに向けた言葉でもあった。
リオールは少し驚いた顔をしたあと、静かに、しかし誇らしげに頷く。
「任せておけ。アスカの隣は、私の居場所だからな」
ふたりの男の言葉に、アスカの胸がじんわりとあたたかくなった。
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