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第192話
その日の夜、リオールと大臣が開いた会議で、イサクには三ヶ月間の奉仕活動を行わせるという処罰になったと報せを聞き、アスカはホッと息を吐いた。
今日は王宮に泊まることになったルカにもそれを知らせると、「いい事をしたな」と言われ、どこか自分を誇らしく思う。
「ところで、お腹のお子は無事なんだよな?」
「え? あ、うん。この子は大丈夫。ちゃんと医務官に診てもらったよ」
「……よかった。俺ァ、気が気じゃなかったんだぜ。そもそも王妃だと知らせてもくれなかっただろ!」
「それは……ごめんね。だって、そんなことを伝える時間も無かったし……」
リオールから許しを貰い、ルカと二人で談笑する。
傍らには王命なのか、いつもより近い距離に清夏と薄氷がいて、こちらを見張っているのがわかる。
「街で貼り紙を見た時に、とんでもねえ事をするやつもいたもんだなって思ってな。同じ紙を見て話してる奴らがなんか知ってそうだったからよ、酒飲んで話させたわけさ」
「おぉ……すごいね。さすが、ルカは昔から人付き合いが上手だから」
上品にくすくす笑うアスカに、ルカも釣られるように笑う。
「そしたらよぉ、王妃様はアスカって名前の銀髪だって言うじゃないか。それは俺の知ってるアスカじゃないかと思ってなぁ。……まあ、昨日の俺はよく働いたよ」
「ありがとう、本当に」
「……いい。お前が元気で、何より嬉しいから」
ルカは柔らかく目を細めると、アスカの頭に手を伸ばし、そっと髪を撫でた。
「辛いことも、たくさんあっただろう。よく頑張ったな」
「っ……」
「あのアスカが、こんなに立派な御人になっちまって」
同い年なのに、まるで兄のようなルカに、アスカは鼻の奥をツンとさせる。
「何かあれば、言ってくれ。──誰を信じればいいのかわからなくなったなら、俺を思い出せばいい」
「っ、ルカ……」
目の溜まった涙が、ほろりと零れる。
その時──
「それは許さんぞ、ルカ!」
「っ!?」
怒りを剥き出しにしたリオールが現れて、アスカをルカから引き離し抱きしめる。
「アスカは私の妻であり、番だ!」
「へ、陛下、へいか、苦しい……っ」
「一番信じているのは、私だ! 私とて、アスカを誰よりも信じているのだからな!」
「へいかぁ……っ」
アスカはリオールの腕を軽く叩き、「離して、離してください」と力なく言う。
ルカはニシシといたずらっ子のように笑った。
「だから、そうならないように、アスカを支えてあげてくださいね、陛下」
「……そなたに言われずとも、わかっておる」
リオールはアスカを抱きしめたまま、唇をツンと尖らせた。
しかし力が僅かに緩められたことで、アスカの苦しさは軽減し、ぽやっとした表情で彼を見上げた。
「誰よりも、何よりも、アスカを愛している」
「!」
「だから、もしも……仮に、私がいない時は、ルカに頼ることも、許そう」
どこか、拗ねた様子のリオールだが、しかし、言葉を撤回することは無かった。
ルカはふっと笑い、そのうちリオールも柔らかく微笑んで。
──二人が固い握手を交わすのを、見た。
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