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第193話
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翌朝早くに、ルカは王宮を出て行った。
「やりたいことが見つかった気がする」と言った彼は、晴れ晴れとした表情をしていて、決して寂しい別れにはならなかった。
イサクはしっかりと奉仕活動をこなしていた。
その奉仕活動というのも、炊き出しを手伝わせるというもので、イサク自身が「こんなのが処罰でいいのか……?」と思うほど、苦しい作業ではなかったらしい。
そして──
それから季節はめぐり──冬がやってきた。
寒さの厳しい冬の夜、王宮の医務室には緊張した空気が漂っていた。
アスカは寝台に横たわり、冷や汗を額に浮かべている。
彼の体は既に限界を迎えていた。呼吸が荒く、顔色も次第に青白くなっていく。
「アスカ……」
リオールはアスカの手を強く握りしめ、震える声で呼びかける。
「大丈夫だ。ここにいる、必ず無事に産まれるから」
その言葉が、アスカの心を少しだけ軽くしてくれる。リオールの温もりが、痛みと闇に包まれた彼を包み込むように感じられる。
医務官が必死に声をかける。
「王妃様、もう少しです。少しだけ、力を入れてください!」
その声に応じるように、アスカはもう一度、力を振り絞る。
身体が悲鳴を上げるような痛みを感じ、思わず顔をしかめる。だが、その中でふとリオールの顔が見えた。彼の眼差しが、見守ってくれている。
それが不思議と心を落ち着かせる。
「アスカ、あともう少しだ」
リオールはそう言って、アスカの手を優しく撫でる。
アスカは再び呼吸を整え、深く息を吸い込む。そして、今度こそ最後の力を振り絞った。
——そして、まるでその瞬間が全てを変えるように、部屋に響き渡る産声。
アスカの身体に力が抜け、ようやく全てが終わったことを感じた。目の前には、誰もが待ち望んだ命が誕生した。
「お、おめでとうございます、王妃様。元気な男の子です」
医務官がそう告げると、アスカは涙を流しながら、微笑んだ。
胸がいっぱいになり、何の言葉も出ない。
「ああ、本当に……」
アスカは弱々しく呟き、リオールの顔を見た。彼の目も涙で潤んでいる。
「ありがとう……私たちの子だ、きっと素晴らしい王になる」
リオールは無言で、そっとアスカの手を握りしめる。
やがて、子供はリオールの腕の中に包まれ、アスカの瞳に映るその姿は、すべての痛みと不安を消し去るかのようだった。
少しして、静寂が部屋を包んだ。
子供の泣き声が消えると、アスカはまるで時間が止まったかのような感覚にとらわれた。
リオールの腕の中で静かに眠る小さな命が、二人にとって新しい希望である。
アスカは息を呑み、しばらくその愛しい姿を見つめていた。
「……とっても、かわいい」
かすれた声で呟くと、リオールはそっとアスカの手を握りしめ、静かに頷いた。
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