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第195話

 日が高く昇った頃、庭には穏やかな風が吹いていた。 「アルマ、ほら、これが瑠璃唐草だよ」  アスカはしゃがみ込み、小さな手を取りながら、目の前の草花を指さす。 「あー!」 「綺麗だよね。このお花はね、とっても強い子なんだよ」  可憐な青色の花が可愛らしい。  アスカはふっと口元を緩ませ、抱いているアルマの頬に唇を落とす。 「──王妃様、お茶をお持ちしました」  清夏が、薄い桃色の花をあしらった菓子と共に、そっと庭に用意された机に置いた。  アスカは「ありがとう」と微笑みながら、椅子に腰掛ける。    アルマを産んでからというもの、体力の消費が激しくて、アスカは少し動くたびに休憩が必要になっていた。 「王子様をお預かりいたしましょうか……?」  無意識に深い息を吐いていたアスカに、清夏が声をかけてくる。  申し訳なく思いながらも、アスカはひとつ頷き、清夏に息子を預けた。 「王妃様、失礼いたします。肩をお揉みしますね」 「あ……ありがとう、薄氷」 「いえ、ずっと王子様を抱いているのもお疲れになりましょう」 「……可愛いから、いくらでも抱いていたいのだけど……体力が、消耗してしまっていて……」  情けない。  苦笑を零せば、目の前でアルマを抱いてあやしてくれている清夏が眉を八の字に下げて微笑んだ。 「子育ては一人でするものではありません。父と母で行うものです。陛下もいらっしゃいます。それに私共もお手伝いいたします。どうか、体がお辛い時はお休みください」 「……うん」  彼女の言葉に、それでも少し罪悪感が湧いてしまう。  陛下は政務で忙しくて、従者達にだって仕事がある。  今一番、手が空いているのは自分であるのに、彼らを頼るだなんて。 「王妃様は人一倍責任感のお強いお方ですが、誰に対しても申し訳がないだなんて思わなくていいのですよ」  薄氷が柔らかい声で言った。  それは本心のようで、アスカの心にそっと触れる。  鼻の奥がツンとして、思わずグッと唇を噛んだ。 「王妃様、どうなさったのです。そのように噛んではいけませんよ」 「っ、二人が、泣かそうとするから……」  従者たちまでもがあたたかくて、アスカは簡単に涙を流してしまう。    そんなとき、パタパタと軽い足音が聞こえてきて、顔を上げた。  後宮の庭であるここに、そのように走ってくるだなんてどうしたのだろうと、音の聞こえた方に顔を向けた。  すると、そこには一人の幼い女官が。  以前、厨房で見たあの子供であった。  アスカがじっと見ていることに気づいた薄氷は、慌てて女官──鈴蘭に向かい声をかける。 「これ、そこの女官。王妃様の御前である。そのように騒ぎ立てるな」 「っ! も、申し訳ございません……!」  アスカは薄氷に向かい、「大丈夫だよ」と言って、再び鈴蘭に顔を向けた。

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